寒波がやってくる警報
京都府内南部から舞鶴~兵庫県某所迄
3日間集中的に巡回しています。
なぜか写真を張れない事を許してください。
今年のこれまでの一カ月半の問題点は渇き。
こういう例えをしました。
カップラーメンあるのにお湯がなくて食べれない
ピンとくる方、野菜のN欠出ましたよね。
手を打っていた方は驚くほど良い出来でした。
ここから先は寒波がきます。
今、肥料を効かさないと路地ものは手遅れになり兼ねません。
明日はイチゴをメインに巡回します。
高槻の原生協コミュニティルームのレンゲ米栽培の報告会を行いました
高槻の原生協コミュニティルームでレンゲ米栽培を通して得られた知見の報告会を行いました。
レンゲ米栽培を経て得られた知見はおそらく温暖化の進む日本において重要な栽培技術になるであろうと確認をしていて、その根拠となる論文の内容も合わせて紹介しました。
この報告会で興味深かったのが、ウンカの被害が激しかった今年において、ウンカ対策の農薬を散布した方がウンカにやられ、散布しなかった方が無傷で収穫を迎えたということでした。
※上記の内容は参加者のうち二名から挙がりました
ウンカは既に農薬の耐性を持っているので殺虫剤はほぼ効かず、生態系では捕食される側の立場で、農薬によってウンカを捕食する天敵が死滅しているという仮説の信憑性が増しました。
HONEY.Kの事業で得た知見で、レンゲ米は田植えの前にレンゲを育てるだけでは実は悪影響で、レンゲを育てる時に土作りをする必要がある話もしています。
京都産業21の「企業の森・産業の森」推進事業に採択されました
公益財団法人京都産業21の「企業の森・産業の森」推進事業補助金で「京都府で地域の微生物の活用によるネギの周年栽培の農薬散布の大幅削減と秀品率の向上の栽培体系の確立を目指す」というテーマで採択されました。
弊社が推奨する基肥設計で栽培をされている方で、秀品率の向上に合わせ農薬防除の回数を削減出来ているほ場が増えつつあります。
この度、サンリットシードリンクスさんの所有する土壌微生物叢の構造・機能を解析する解析技術(東樹宏和京都大学准教授の研究成果)を用いて、今までブラックボックスであった好調の畑の土壌の作物と微生物(主に内生菌)の関係の調査を行い、土壌微生物叢を加味した肥培管理の構築を行います。
種多様なネットワークとメタ群集レベルにおける生態学–進化学の統合 | おすすめのコンテンツ | Nature Ecology & Evolution | Nature Research
東樹 宏和氏:多種生物種ネットワークを基に生態学と進化学をつなぐ | 著者インタビュー | Nature Ecology & Evolution | Nature Research
直近はべと病菌に対して強いネギから調査をはじめ、べと病による秀品率の低下を防ぐ為の栽培技術の確立を目指します。
アザミウマの対策を考える
毎年春から夏に向けて、アザミウマで困っているという話をよく聞きます。
一昨年、緑肥を採用してアザミウマの被害が減ったという報告があったり、虫による食害防止の知見が集まってきましたので、整理して紹介します。
はじめに緑肥を採用した時の話を紹介すると、
ネギ畑の通路にマルチムギという緑肥を育てたところ、アザミウマの被害が減ったということがありました。
詳しくは緑肥の可能性を探るの記事に記載がありますが、マルチムギがネギよりもはやくに深く発根して、ネギの根が肥料分の濃いところに到達する前に根を張り巡らせて、酸素を行き渡らせたり、高濃度の肥料分を緩和したということが考えられます。
他にマルチムギの群生にアザミウマの天敵が増えて、アザミウマ自体の個体数が減ったという可能性も考えられます。
土着天敵を活用する害虫管理の最新技術 IPMに取り込むことが可能な土着天敵利用技術
最近増えた知見として、緑肥との混作は様々な種類の根が張り巡るわけで、菌根菌といった作物を丈夫にするような共生菌が増えた可能性もあります。
菌根菌が増える事によって、土壌中の微量要素の吸収効率が増し、虫や病気になりにくくなると言われています。
今回紹介した話に対して、マルチムギのタネを播けない時期はどうしたら良いか?という内容の質問がありました。
例えば、秋から翌年の春まで栽培されるタマネギあたりです。
先程の夏場のネギの実績を改めて確認してみると、
あまり背丈が高くなく、こぼれ種で翌年以降の栽培に悪影響を与えない緑肥は何か?と考えてみたところ、
越冬性の赤クローバあたりが頭に浮かびました。
クローバの中でも赤クローバは直立性で横にあまり広がらず、背丈は高くても50cmぐらいでマルチムギより若干高いぐらい。
更にクローバの根は集菌能力が高いと言われており、連作で劣化した土壌に対して良い効果をもたらす可能性もあります。
ここで一点程注意事項がありまして、
ネギ科(旧ユリ科)とマメ科の草は相性が悪いという話があります。
ネギの根から分泌される物質がマメ科周辺の根粒菌に悪影響を与えることが理由でして、タマネギ栽培での通路の赤クローバの緑肥はこれから検証していく必要があります。
他にマルチムギと同じエンバクを育ててみるという案もあります。
エンバクは冬に強くどちらかという粘土質土壌を得意としたイネ科の緑肥になりますが、初春に急速に伸びる傾向がありまして、初春以降のタマネギの栽培にどこまで影響を与えるか?を意識しておくことが大事になります。
※砂地であればライムギが適しています。
緑肥を栽培する場合は事前に下記の記事を一読することをオススメします。
微生物資材に頼る前に意識してほしいこと
栽培がうまくいっていない畑で、微生物資材を入れたら改善されますか?という話題が時々挙がります。
大体名前が挙がる微生物資材はバチルス菌や納豆菌(どちらも枯草菌)で、細菌という非常に小さな生物を用いることが多いです。
ここでよく返答している内容が、土作りがしっかり出来ていなければ、微生物資材はお金をドブに捨てるようなものです。微生物資材に頼る前に元肥の設計を見直してください。と伝えています。
何故、土作りよりも先に微生物資材を使うと無駄になりやすいのか?を一つずつ丁寧に見ていくことにします。
微生物に限らず生物が生きる事の前提として、環境が合えば爆発的に増え、環境が合わなければおとなしくなるか消えます。この前提は微生物資材でも同じように言えます。資材だからといって特別にどんな環境でも大丈夫ということはありません。
それでは、枯草菌の得意とする環境を見ていく事にしましょう。
これから始める前提として枯草菌は好気性(酸素を好む)の細菌として扱われていて、中温性で最適生育温度は25〜35℃です。
※堀越考雄 二井一禎編著 土壌微生物生態学 朝倉書店 12ページより引用
枯草菌を上の図で土壌細菌に当てはめてみます。
上の図の2次鉱物と記載されているものは粘土鉱物になり、土壌細菌が居る場所を丁寧に見てみると、粘土鉱物付近になります。
※何故粘土鉱物の付近に細菌がいるか?という話は深いので省略します
それでは、
こんな感じのコテコテの粘土質の土壌であれば細菌に適した環境であるか?といえばそうではなく、上の図をもう少し丁寧に見てもらうと、間隙(空気の層)もあることが条件だと読み取ることが出来ます。
これらの内容を整理すると、
粘土鉱物肥料(地力薬師)と腐植(マッシュORG等)や植物性の有機物と合わせて施用し、
粘土鉱物が水を含みコロイド化することで、土壌粒子と有機物をつなぐように中に入り込み、
誰が見ても、フカフカで栽培しやすそうな土になってはじめて、微生物資材の細菌らが快適に生育できる環境になったと言えます。
フカフカの土であれば、空気をふんだんに含み、土が冷たすぎず暑すぎず、枯草菌にとって最適温度の期間が長くなっています。
微生物資材に頼りたくなる時を思い浮かべてみると、
晴れの日が続くと、土表面がひび割れするような土で、栽培が不調な環境です。土壌粒子が細かすぎて、土に空気が行き渡っていない(間隙がない)状態です。
今までの話を踏まえると、この環境は微生物資材にとっては有利な環境では無いということになるので、微生物資材に頼ってもイマイチ、もしくは何も変わらないという事になるのです。
微生物資材に頼りたいと頭に浮かんだら、その前にやるべきことがないだろうか?
この記事を読んで、そう思っていただけるようになれば幸いです。
追記
今回の記事では微生物資材が意味がないということを言いたいわけではありません。微生物資材が効果を発揮すると下記の記事に記載されているようなことが起こる可能性があります。
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ひび割れしている畑ではバークの施用時に必ず地力薬師を併用してください
ひび割れしている畑ではバークの施用時に必ず地力薬師を併用してください
佐賀県の方から写真と一緒に下記の質問がありました。
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ほ場が、しまった感じです。バークを投入しようと思いますが、一緒に地力薬師も投入した方が。よろしいでしょうか?因みに、水持ちはいい畑です。バーク投入は一回の量を増やして様子を見るのがよろしいですか?それとも、定量を毎作入れた方がよろしいですか?
/**********************************************/
結論から書きますと、
上の写真の畑であればバーク堆肥を施用する場合は必ず地力薬師も一緒に施用してください。
晴れの日が続いた時にひび割れが発生することが改善されない場合はバークと粘土鉱物の量の様子を見ずに必ず定量入れるようにしてください。
理由は2つ程ありますが、その前に地力薬師について触れておきます。
地力薬師は2:1型粘土鉱物のモンモリロナイトを主成分とした粘土鉱物肥料で主な効果としては、
粘土鉱物が有機物を含む様々なものと吸着して、
土壌粒子をまとめて、フカフカの土にして土壌の物理性を改善します。
物理性が改善すると、過剰な肥料成分が一箇所に溜まって作物の根に悪影響を与えることが減ります。
過剰な肥料成分が溜まることによる悪影響は下記の記事に詳しい記載があります。
もう一点は、
地力薬師の成分にあるとおり、カリやその他微量要素といった鉱物が風化した時に供給される肥料成分が含まれています。
微量要素が不足していると、虫や病気に弱くなります。
これらを踏まえた上で、再び土の写真を見てみます。
晴れの日が数日続いた時に土の表面にひびが入るのは、土に腐植を含む有機物が足りない証拠です。有機物が足りていない状態では、秀品率の向上が見込めない他、微量要素を含む土壌の鉱物が壊れやすい状態にもなっていて、微量要素が無駄に容脱しやすい状況になっています。
水持ちが良いとのことですが、水持ちが本当に良ければひび割れは発生しません。ところどころが乾燥気味になっているのでひびが割れるわけで、作物にとって、あるところでは水を含み、あるところでは水を含まないというバランスの悪い状態になっていて、よく育つところと全然育たないところといった経営上よろしくない状態になっています。
バークでひび割れを発生しにくくして、バランスの良い環境作りを狙いつつ、粘土鉱物でバークの効果を高めつつ、微量要素の貯金という意味合いでひび割れが改善するまで毎作入れ続けることが良いということになります。
バークについては下記の記事で整理していますので、これからバークの選定をする場合は下記の記事をご覧ください。
余談
質問を頂いた方の土質を調べると、
※質問者の畑ではなく、質問者が栽培している地域で特徴的な土質の畑にピンを置いています。
風化変質赤黄色土という分類になっています。
これはあくまでも参考として使えるイメージになりますが、赤黄色土というのは古い土壌というイメージが強く、どちらかというと鉱物由来の肥料成分を使い切ったであるとか、粘土が多くなったという特徴があるそうです。
粘土が多いのであれば粘土鉱物肥料の地力薬師は不要ではないか?という疑問が生じますが、赤黄色土で溜まっている粘土は、粘土鉱物も消耗していて、栽培にとって不利な粘土鉱物の形になっていて、水が溜まりやすい割に有機物が溜まりにくいという栽培にとって非常に厄介な状態と言えます。
上記の内容の詳しい説明は下記の記事に記載しています。
自身の畑が赤黄色土でなかったとしても、周辺の土質が赤黄色土であれば、自身の畑の土も赤黄色土に似たような特徴がある可能性が高いので、土質図を見て、すぐ近くに赤黄色土に分類されている土があったら、この地域は過酷な栽培条件なんだと意識して栽培する必要があります。
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葉面散布で殺虫剤の使用回数を減らして秀品率の向上を目指す
前々回の殺菌剤の使用を見直すことが秀品率の向上に繋がるの記事と、前回の菌根菌に関して肥料でどこまで出来るか?の記事で、殺菌剤を使用すると作物が弱る可能性があり、虫や病気の被害を軽減するためには殺菌剤の使い方を意識的に変える必要があるということを記載し、殺菌剤の使用量の削減として菌根菌についてわかっていることを整理しました。
今回の記事では菌根菌とは別の視点で作物が強くなる為にヒントになりそうなことを整理して紹介します。
早速、興味深い研究報告を一報紹介します。
うま味が痛みを伝えている!?-植物が傷つけられたことを感じ、全身へ伝える仕組みを解明-(大学院理工学研究科 豊田 正嗣准教授) - 埼玉大学
要約すると、葉が幼虫に食害されたり、ハサミで一部を切ると傷ついたところから全身に向けてグルタミン酸(アミノ酸の一種)を用いて傷ついた情報を伝達していました。グルタミン酸を受容した細胞では次の傷害に備えはじめました。
研究ではシロイヌナズナを用いていましたが、情報の伝達という植物が生きる上での基礎的な反応ですので、植物全般に上記の内容が言えるという仮定で話を進めます。
この報告で気になった箇所があり、
更なる検証として、細胞の外からグルタミン酸を投与したところ、葉が損傷した時と同じ反応を示したという報告が記載されていました。
投与に関して詳しい記述はありませんでしたが、実験方法から考えると、おそらく葉にグルタミン酸を散布もしくは注入が考えられますが、注入は葉にダメージを与える行為になりますので、この可能性は外すとなると、葉にグルタミン酸を散布という可能性が強くなります。
この研究報告に目を通した時、アミノ酸の葉面散布は効果がありますか?で紹介した内容が頭に浮かびました。
アミノサンプロというアミノ酸肥料を定期的に葉面散布されている方々から、葉の照り艶が増して、食味が向上しつつ、虫の被害が減って農薬の散布量が減ったという話題が頻繁に挙がります。
虫の被害が減ったということは、食害時の傷穴から病原菌が侵入する機会が減る事になるので、作物が病気の感染も減り、殺菌剤の使用量の削減にも繋がる事になります。
アミノ酸肥料の葉面散布は作物が防御の為に合成する各種タンパクの材料として働くので、防御力が増すという意味合いで病気が減ると予想していましたが、今回の研究報告を加味すると、被害を受けていない株が病害虫に対して身構える為のキッカケになる可能性も有り得るわけで、アミノ酸肥料の葉面散布が予防薬的な面でも有効であるかもしれません。
アミノ酸肥料の葉面散布以外で、
農文協から作物の栄養生理最前線 ミネラルの働きと作物、人間の健康という本に記載されていた内容になりますが、
葉面散布は作物に追肥的な意味合いの他に障害発生の予防として有効とされていて、障害発生の予防のためには1週間に一回程度の継続散布が必要とされているそうです。興味深い効果として、水溶性ケイ酸による病気に対する抵抗性の誘導やアミノ酸による根圏微生物相の改善効果もあるとされていると記載されていました。
粘土鉱物肥料を葉面散布用に粒状にしたものを使用している方々から、葉が固くなって、病気の感染が減ったように感じると話題に挙がることが度々あります。
ここで一つよく挙がる質問があるので紹介すると、
虫や病気に強くなった作物は美味しくないのでは?という話題が挙がります。
先に体感した内容で返答すると、
虫の被害を受けにくく、病気になりにくい作物は食感が良く、味も良好です。
葉が硬くなって、虫の被害を受けにくくなったものは良好な食感に繋がっているはずです。
葉が合成する虫を寄せ付けにくくする成分は、
ネギの仲間であれば、動脈硬化の予防等の硫化アリルであったり、コマツナ等のアブラナ科の作物であれば、抗がん作用があるとされるイソチオシアネートであったりして、機能性野菜としての価値が高まっている可能性が十分に考えられ、前回の菌根菌からの観点も加味すると、葉にミネラルも蓄えているので、栄養価も高まっている可能性も考えられます。
ミネラルを豊富に含む作物は光合成の質も高い為、糖由来の甘み、アミノ酸由来の旨味も良いはずで、グルタチオンによる味の増強やポリフェノール類のほんのりとした苦味が作物の味の質を高めている可能性もあります。
※グルタチオンは光合成が盛んな葉でよく蓄積されている物質です。
最後に葉面散布は今回紹介したアミノサンプロや粉の地力薬師以外でもノウハウが蓄積されています。
弊社のノウハウは土壌散布と葉面散布の実践手引き(有料)に予防薬と合わせて記載があります。
土壌散布と葉面散布の実践手引きは京都農販が関与しているイベントや勉強会で入手することができます。
補足
グルタチオンについて
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近年レバーやホタテ貝、魚醤、ニンニク、タマネギ、酵母エキスといった食べ物に含まれるグルタチオンのような小さなトリペプチドが、舌上のカルシウム感受性チャネルを刺激することによってこく味が引き起こされると報告されています。グルタチオン自体に味はありませんが、苦味を抑え、塩味、甘味、うま味を増強します。なお、酸味への影響は明らかにされていません。しかし、わずか2〜200ppmといった微量でもこく味を感じさせる効力があります。
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※食感をめぐるサイエンス - 株式会社 化学同人 14ページより引用
補足2
グルタチオンには抗酸化作用があります。
作物の収穫量・品質向上に関与するグルタチオンの機能解明 - 農林水産技術会議
2-アミノ酪酸による新たなグルタチオン代謝制御機構を発見 -錆びない体づくりの秘訣として期待- | Research at Kobe
菌根菌に関して肥料でどこまで出来るか?
前回の殺菌剤の使用を見直すことが秀品率の向上に繋がるの記事の続きです。
前回の記事では作物と菌根菌の共生の観点から、虫の被害や病気を減らしつつ秀品率を高める為には、殺菌剤を減らすか使用しないということが重要であることを記載した。
殺菌剤の作用機構のイメージをより明確にすることで、殺菌剤はより効率的に使用できるようになり、殺菌剤による作物のダメージを減らし、それが秀品率の向上へと繋がっていきます。
今回は作物の耐性を増やすという観点で話を進めたいと思います。
菌根菌といっても、目には見えない微生物の話なので、自身の栽培に取り入れることが難しいかと思います。
菌根菌に限らず、微生物資材全般に言えることを記載しておくと、
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各微生物には得意な環境があって、得意な環境であれば爆発的に増殖するけれども、不得意な環境であれば、増殖できないどころか、休眠や自殺することがある。
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高価で有益な微生物資材を購入してきたとしても、使用前に土壌環境を整えていなければお金をドブに捨てる行為になるということを忘れてはいけません。
有益な微生物や病原性の微生物の生態から判断するに、ECを常に低くしつつ、土壌をフカフカにすることを目的としていてば、比較的有益な微生物が増えやすい環境に近づいていると言えます。
上記の環境を目指す上で大事な話は下記の記事に記載があります。
良い菌はどういう環境に集まるか?という観点を元に菌根菌の環境を考えてみたいと思います。
作物と共生すると言われる菌根菌は普遍的に土壌中にいるとされています。
作物は菌根菌と共生するとお互いに優位になると言われているが、共生には双方にそれなりのコストがかかる上、菌の住処が植物の根であるので
作物側で発根が活発な環境であることが大事であることが重要であるはずです。
発根促進に関しては下記の記事に記載があります。
次に菌根菌に関して最近の興味深い研究報告を紹介します。
アーバスキュラー菌根菌の純粋培養に世界で初めて成功~微生物肥料としての大量生産に道~ - 国立研究開発法人 科学技術振興機構
上記の論文の要点は2つで、土壌中に普遍的にいる細菌(バクテリア)や植物油に含まれる脂肪酸を含めて培養すると、菌根菌の増殖が活発になるというものです。
※油分を酵母等の微生物が分解すると上記の脂肪酸になる
上記の研究報告が作物にとっても有効であるか?という論点はありませんが、有効であると仮定して話を進めます。
※図:堀越孝雄、二井一禎編著 土壌微生物生態学 - 朝倉書店 12ページより引用
上の図は土壌構造と微生物のすみかということで、土壌微生物が土壌中でどういうところにいるかをイラスト化したものとなっている。
用語の整理をしておくと、
・菌類の菌糸→菌根菌を含む糸状菌の菌糸
・1次鉱物→粘土鉱物ではない鉱物
・2次鉱物→粘土鉱物
となっている。
ここで注目したいのは、菌糸は土壌の間隙(≒気層)にいて、細菌は粘土鉱物や植物の根の近くにいることになっている。
上記の研究報告と合わせると、粘土鉱物と腐植が土に馴染んでいるところで菌根菌が活発になる可能性が高いことが言える。
余談だけれども、
最近生ゴミを土に混ぜる時に2:1型粘土鉱物を一緒に混ぜて経過を観察していたら、
2:1型粘土鉱物→地力薬師
粘土鉱物の持つ吸着性が周辺の有機物や小石を吸着し、粘土鉱物がコロイド化し、
上の写真のように土壌粒子内に粘土鉱物が微細になって入り込み、いずれは粘土鉱物が見えないぐらい小さくなりながら、土壌粒子を接着するように馴染んでいく経過が観察できた。
上の写真の数日後は空気がふんだんに入るような団粒構造のような形を形成していた。
話を戻して、土壌粒子に溶け込んだ粘土鉱物に土壌の細菌が住み着いて、土壌微生物の多様性というものが増す事になる。
話を菌根菌の培養の研究報告に戻して、菌根菌の培養のもう一つの条件の方を見てみる。
もう一つの条件に挙がっていたのが、植物油に豊富に含まれる脂肪酸が菌根菌の増殖にとって重要であるそうだ。
普段の肥料で脂肪酸を豊富に含んでいる肥料は何だろう?と考えてみて浮かんだものが、
米ぬかや油粕等の食品残渣系の有機質肥料があった。
米ぬかという言葉で連想する堆肥として、
キノコの廃菌床由来の堆肥がある。
キノコ栽培を行う時、キノコの餌として米ぬかを添加する。
米ぬかは菌の働きによって分解され、堆肥中にもそれなりの量が残るとされます。
※有益な微生物を米ぬかで活発にしたというイメージ
廃菌床を土に馴染ませるという観点から土作りを始めることが秀品率を高める上での重要な一歩になるかもしれません。
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殺菌剤の使用を見直すことが秀品率の向上に繋がる
先日の京葱SAMURAI株式会社様向けで秀品率の向上の為に意識すべきことの話をさせて頂きました等での内容になりますが、栽培を苦戦している要因として、殺菌剤や土壌消毒という言葉に対して過度に信用していることが様々な問題を起こしているのではないか?と予想しています。
今回はより秀品率を高める為に殺菌剤の使用時に意識したいことをまとめます。
結論から伝えますと、殺菌剤の使用を誤ると、病気の発生率が格段に向上すると予想しています。
今回は様々な視点から上記の予想の説明を記載することにします。
※図:京都大学学術出版会 菌類の生物学 53ページより引用
菌根菌というものがあります。
菌根菌とは植物の根と共生する糸状菌の仲間で、菌根菌に感染した植物の根に菌根という非常に細い根が無数に生え、植物は菌根菌に栄養を与える代わりに、菌根菌から植物の根では吸収が難しいようなリンや微量要素を得るという共生関係を結びます。
菌根菌に感染した植物は菌根菌から頂いた特殊な糖によって、乾燥や寒さに強くなったり、菌根菌からの感染の刺激をトリガーとして、虫害への耐性が強くなると言われています。
※詳しく知りたい方はトレハロースやジャスモン酸で検索してみてください。
整理すると、菌根菌と共生した植物は食害を受けにくく、食害を受けたとしても、微量要素を快適に吸収し続けている為、傷の回復がはやくなります。
ここで植物の病気の感染経路を見てみます。
病原性微生物の感染経路として、作物の栽培では大きく3種類の経路があると言われています。
・うどんこ病等の葉の表面を無理やり穴を空けて感染する(メラニンによる圧力)
・葉の裏にある気孔から侵入して感染する
・細菌やウィルス等で虫にかじられた穴から侵入して感染する
もし、虫による食害被害が減ったのであれば、もしくは傷がはやく回復するのであれば、三番目の傷穴からの感染の確率は大幅に削減出来ることになるわけで、菌根菌との共生した植物では虫への耐性が増し、同時に病気になりにくくなったと言えます。
ここで一つ興味深い研究結果を紹介します。
要約しますと、
菌根菌と共生した植物では葉食性昆虫や潜葉性昆虫に食害されにくくなり、(カーバメート系)殺菌剤を使用した実験区では食害されやすくなった。
※ただし、すべての昆虫で同様のことを言えたわけではない。
研究報告ではオオバコで試験をしていますが、おそらく作物全般に当てはまると捉えて良いはずです。
殺菌剤を利用すると、菌根菌も菌であるため、何らかの悪影響を与えるのは容易に想像出来、菌根菌との共生が弱くなることで、虫に対して弱くなり、虫害によって病気になる可能性が増すと言えます。
であるので、極力殺菌剤の使用は控えた方が良いと言えます。
殺菌剤についてもう一つの視点を紹介します。
殺菌という言葉を聞くと、おそらく薬剤を散布したら、薬剤に触れた病原性微生物が即座に消滅するというイメージがあるかと思いますが、殺菌の定義について調べてみますと、
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殺菌は文字通り菌を殺すことである。対象や程度は保証されない。極端な話をすれば、1%の菌を殺して99%が残っている状態でも「殺菌した」と言える。
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※ 殺菌#殺菌より抜粋
農薬としての殺菌剤の作用点を見ると、大半の殺菌剤は病原菌を徐々に弱体化させつつ、いずれ無毒なところまで個体数を減らして症状を治すことになっていて、病気が蔓延した状態では効果を発揮しないものが大半です。
※上記の内容は朝倉書店から出版された新版農薬の科学を参考にしています
病原菌に限らず、すべての微生物で言えることですが、環境条件に当てはまった微生物は個体数を爆発的に増加させ、当てはまらなかった微生物は増加することはないという鉄則があります。病気が蔓延したということは、病原菌にとって増殖しやすい環境条件が揃ったということになります。
整理しますと殺菌剤は予防的に活用する際は効果を発揮しますが、治療を目的とした時は効果は薄いという事になり、病気が大発生した時に殺菌剤を使用すると、作物は菌根菌等の有用な菌にまで悪影響を与え、虫への耐性が減ることで病気になりやすくなるといった悪循環に陥る可能性があります。
※病気が蔓延している環境では、病原菌の増殖が優勢で、有益な菌が抑えられている状態ですので、殺菌剤によって有益な菌が弱り、病原菌をより優勢な状態にする可能性があります。
それでは作物が病気になった場合はどうすれば良いのか?という質問が挙がると思います。
有効な手段として、
酸素供給剤の殺菌作用についてに記載されている内容であったり、
弊社のノウハウをまとめた土壌散布と葉面散布の実践手引き(有料)に具体的な記載があります。
作物が病気にかかった時こそ、巧みな追肥で作物を強くすることが有効です。
土壌散布と葉面散布の実践手引きは京都農販が関与しているイベントや勉強会で入手することができます。
余談ですが、
作物が菌根菌と共生することでリン酸や微量要素の吸収能力が向上し、作物の栄養価や味が改善される可能性があります。
殺菌剤の使用を適切にすることで、美味しく健康的な作物の栽培に繋がるかもしれません。
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京葱SAMURAI株式会社様向けで秀品率の向上の為に意識すべきことの話をさせて頂きました
京葱SAMURAI株式会社様向けに秀品率の向上の為に意識すべきことの話をさせて頂きました。
昨今の菌根菌の解明された研究報告の論文を元に、殺菌剤を使用するということが虫に対する耐性を下げる要因や食味の低下の要因になる可能性の話に触れ、極力殺菌剤は使用しない方法の模索や、不本意ながら殺菌剤を使う事になった時に使用後にどのような対策をとれば、以後の栽培が不利な状況にならないか?といったことに触れました。
これから虫害で頭を悩ませる季節に突入する中、今回の話が少しでも問題解決のお役に立てることができれば幸いです。
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本日は、京葱SAMURAI株式会社
— Kyoto-nouhan ORG (@KyotoNouhan) February 27, 2020
さんの社内研修に呼ばれて勉強会の講師をさせて頂きました。
土作りから発展してさらに秀品率を上げる為のお話しを@saitodev と話させて頂きました。#KyotoNouhan #京都農販 pic.twitter.com/K9ot3HKE9F