微生物資材に頼る前に意識してほしいこと

投稿日:2020-03-28  

栽培がうまくいっていない畑で、微生物資材を入れたら改善されますか?という話題が時々挙がります。

大体名前が挙がる微生物資材はバチルス菌や納豆菌(どちらも枯草菌)で、細菌という非常に小さな生物を用いることが多いです。


ここでよく返答している内容が、土作りがしっかり出来ていなければ、微生物資材はお金をドブに捨てるようなものです。微生物資材に頼る前に元肥の設計を見直してください。と伝えています。


何故、土作りよりも先に微生物資材を使うと無駄になりやすいのか?を一つずつ丁寧に見ていくことにします。




微生物に限らず生物が生きる事の前提として、環境が合えば爆発的に増え、環境が合わなければおとなしくなるか消えます。この前提は微生物資材でも同じように言えます。資材だからといって特別にどんな環境でも大丈夫ということはありません。


それでは、枯草菌の得意とする環境を見ていく事にしましょう。

これから始める前提として枯草菌は好気性(酸素を好む)の細菌として扱われていて、中温性で最適生育温度は25〜35℃です。

枯草菌 - Wikipedia


※堀越考雄 二井一禎編著 土壌微生物生態学 朝倉書店 12ページより引用


枯草菌を上の図で土壌細菌に当てはめてみます。

上の図の2次鉱物と記載されているものは粘土鉱物になり、土壌細菌が居る場所を丁寧に見てみると、粘土鉱物付近になります。

※何故粘土鉱物の付近に細菌がいるか?という話は深いので省略します


それでは、



こんな感じのコテコテの粘土質の土壌であれば細菌に適した環境であるか?といえばそうではなく、上の図をもう少し丁寧に見てもらうと、間隙(空気の層)もあることが条件だと読み取ることが出来ます。


これらの内容を整理すると、



粘土鉱物肥料(地力薬師)と腐植(マッシュORG等)や植物性の有機物と合わせて施用し、



粘土鉱物が水を含みコロイド化することで、土壌粒子と有機物をつなぐように中に入り込み、



誰が見ても、フカフカで栽培しやすそうな土になってはじめて、微生物資材の細菌らが快適に生育できる環境になったと言えます。

フカフカの土であれば、空気をふんだんに含み、土が冷たすぎず暑すぎず、枯草菌にとって最適温度の期間が長くなっています。




微生物資材に頼りたくなる時を思い浮かべてみると、



晴れの日が続くと、土表面がひび割れするような土で、栽培が不調な環境です。土壌粒子が細かすぎて、土に空気が行き渡っていない(間隙がない)状態です。

今までの話を踏まえると、この環境は微生物資材にとっては有利な環境では無いということになるので、微生物資材に頼ってもイマイチ、もしくは何も変わらないという事になるのです。


微生物資材に頼りたいと頭に浮かんだら、その前にやるべきことがないだろうか?

この記事を読んで、そう思っていただけるようになれば幸いです。


追記

今回の記事では微生物資材が意味がないということを言いたいわけではありません。微生物資材が効果を発揮すると下記の記事に記載されているようなことが起こる可能性があります。

生育状況の確認と発根促進に関すること


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団粒構造を作りやすい腐植の種類などはありますか?

ひび割れしている畑ではバークの施用時に必ず地力薬師を併用してください

菌根菌に関して肥料でどこまで出来るか?

ひび割れしている畑ではバークの施用時に必ず地力薬師を併用してください

投稿日:2020-03-07  

佐賀県の方から写真と一緒に下記の質問がありました。




/**********************************************/

ほ場が、しまった感じです。バークを投入しようと思いますが、一緒に地力薬師も投入した方が。よろしいでしょうか?因みに、水持ちはいい畑です。バーク投入は一回の量を増やして様子を見るのがよろしいですか?それとも、定量を毎作入れた方がよろしいですか?

/**********************************************/


結論から書きますと、


地力薬師 - 京都農販


上の写真の畑であればバーク堆肥を施用する場合は必ず地力薬師も一緒に施用してください。

晴れの日が続いた時にひび割れが発生することが改善されない場合はバークと粘土鉱物の量の様子を見ずに必ず定量入れるようにしてください。


理由は2つ程ありますが、その前に地力薬師について触れておきます。




地力薬師は2:1型粘土鉱物のモンモリロナイトを主成分とした粘土鉱物肥料で主な効果としては、



粘土鉱物が有機物を含む様々なものと吸着して、



土壌粒子をまとめて、フカフカの土にして土壌の物理性を改善します。

物理性が改善すると、過剰な肥料成分が一箇所に溜まって作物の根に悪影響を与えることが減ります。

過剰な肥料成分が溜まることによる悪影響は下記の記事に詳しい記載があります。

ハウス内の塩類集積対策について


もう一点は、



地力薬師の成分にあるとおり、カリやその他微量要素といった鉱物が風化した時に供給される肥料成分が含まれています。

微量要素が不足していると、虫や病気に弱くなります。


これらを踏まえた上で、再び土の写真を見てみます。





晴れの日が数日続いた時に土の表面にひびが入るのは、土に腐植を含む有機物が足りない証拠です。有機物が足りていない状態では、秀品率の向上が見込めない他、微量要素を含む土壌の鉱物が壊れやすい状態にもなっていて、微量要素が無駄に容脱しやすい状況になっています。


水持ちが良いとのことですが、水持ちが本当に良ければひび割れは発生しません。ところどころが乾燥気味になっているのでひびが割れるわけで、作物にとって、あるところでは水を含み、あるところでは水を含まないというバランスの悪い状態になっていて、よく育つところと全然育たないところといった経営上よろしくない状態になっています。


バークでひび割れを発生しにくくして、バランスの良い環境作りを狙いつつ、粘土鉱物でバークの効果を高めつつ、微量要素の貯金という意味合いでひび割れが改善するまで毎作入れ続けることが良いということになります。


バークについては下記の記事で整理していますので、これからバークの選定をする場合は下記の記事をご覧ください。

団粒構造を作りやすい腐植の種類などはありますか?


余談

質問を頂いた方の土質を調べると、


日本土壌インベントリー

※質問者の畑ではなく、質問者が栽培している地域で特徴的な土質の畑にピンを置いています。


風化変質赤黄色土という分類になっています。

これはあくまでも参考として使えるイメージになりますが、赤黄色土というのは古い土壌というイメージが強く、どちらかというと鉱物由来の肥料成分を使い切ったであるとか、粘土が多くなったという特徴があるそうです。


粘土が多いのであれば粘土鉱物肥料の地力薬師は不要ではないか?という疑問が生じますが、赤黄色土で溜まっている粘土は、粘土鉱物も消耗していて、栽培にとって不利な粘土鉱物の形になっていて、水が溜まりやすい割に有機物が溜まりにくいという栽培にとって非常に厄介な状態と言えます。

上記の内容の詳しい説明は下記の記事に記載しています。

粘土質の畑で粘土鉱物系の肥料を使用しても良いか?


自身の畑が赤黄色土でなかったとしても、周辺の土質が赤黄色土であれば、自身の畑の土も赤黄色土に似たような特徴がある可能性が高いので、土質図を見て、すぐ近くに赤黄色土に分類されている土があったら、この地域は過酷な栽培条件なんだと意識して栽培する必要があります。


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京都には腐植を入れるだけで良い土はありますか?

葉面散布で殺虫剤の使用回数を減らして秀品率の向上を目指す

投稿日:2020-03-04  

前々回の殺菌剤の使用を見直すことが秀品率の向上に繋がるの記事と、前回の菌根菌に関して肥料でどこまで出来るか?の記事で、殺菌剤を使用すると作物が弱る可能性があり、虫や病気の被害を軽減するためには殺菌剤の使い方を意識的に変える必要があるということを記載し、殺菌剤の使用量の削減として菌根菌についてわかっていることを整理しました。


今回の記事では菌根菌とは別の視点で作物が強くなる為にヒントになりそうなことを整理して紹介します。


早速、興味深い研究報告を一報紹介します。

うま味が痛みを伝えている!?-植物が傷つけられたことを感じ、全身へ伝える仕組みを解明-(大学院理工学研究科 豊田 正嗣准教授) - 埼玉大学


要約すると、葉が幼虫に食害されたり、ハサミで一部を切ると傷ついたところから全身に向けてグルタミン酸(アミノ酸の一種)を用いて傷ついた情報を伝達していました。グルタミン酸を受容した細胞では次の傷害に備えはじめました。


研究ではシロイヌナズナを用いていましたが、情報の伝達という植物が生きる上での基礎的な反応ですので、植物全般に上記の内容が言えるという仮定で話を進めます。


この報告で気になった箇所があり、

更なる検証として、細胞の外からグルタミン酸を投与したところ、葉が損傷した時と同じ反応を示したという報告が記載されていました。

投与に関して詳しい記述はありませんでしたが、実験方法から考えると、おそらく葉にグルタミン酸を散布もしくは注入が考えられますが、注入は葉にダメージを与える行為になりますので、この可能性は外すとなると、葉にグルタミン酸を散布という可能性が強くなります。


この研究報告に目を通した時、アミノ酸の葉面散布は効果がありますか?で紹介した内容が頭に浮かびました。

アミノサンプロ - 京都農販


アミノサンプロというアミノ酸肥料を定期的に葉面散布されている方々から、葉の照り艶が増して、食味が向上しつつ、虫の被害が減って農薬の散布量が減ったという話題が頻繁に挙がります。

虫の被害が減ったということは、食害時の傷穴から病原菌が侵入する機会が減る事になるので、作物が病気の感染も減り、殺菌剤の使用量の削減にも繋がる事になります。


アミノ酸肥料の葉面散布は作物が防御の為に合成する各種タンパクの材料として働くので、防御力が増すという意味合いで病気が減ると予想していましたが、今回の研究報告を加味すると、被害を受けていない株が病害虫に対して身構える為のキッカケになる可能性も有り得るわけで、アミノ酸肥料の葉面散布が予防薬的な面でも有効であるかもしれません。


アミノ酸肥料の葉面散布以外で、


農文協から作物の栄養生理最前線 ミネラルの働きと作物、人間の健康という本に記載されていた内容になりますが、


葉面散布は作物に追肥的な意味合いの他に障害発生の予防として有効とされていて、障害発生の予防のためには1週間に一回程度の継続散布が必要とされているそうです。興味深い効果として、水溶性ケイ酸による病気に対する抵抗性の誘導やアミノ酸による根圏微生物相の改善効果もあるとされていると記載されていました。

地力薬師 - 京都農販


粘土鉱物肥料を葉面散布用に粒状にしたものを使用している方々から、葉が固くなって、病気の感染が減ったように感じると話題に挙がることが度々あります。


ここで一つよく挙がる質問があるので紹介すると、

虫や病気に強くなった作物は美味しくないのでは?という話題が挙がります。


先に体感した内容で返答すると、

虫の被害を受けにくく、病気になりにくい作物は食感が良く、味も良好です。


葉が硬くなって、虫の被害を受けにくくなったものは良好な食感に繋がっているはずです。

葉が合成する虫を寄せ付けにくくする成分は、



ネギの仲間であれば、動脈硬化の予防等の硫化アリルであったり、コマツナ等のアブラナ科の作物であれば、抗がん作用があるとされるイソチオシアネートであったりして、機能性野菜としての価値が高まっている可能性が十分に考えられ、前回の菌根菌からの観点も加味すると、葉にミネラルも蓄えているので、栄養価も高まっている可能性も考えられます。


ミネラルを豊富に含む作物は光合成の質も高い為、糖由来の甘み、アミノ酸由来の旨味も良いはずで、グルタチオンによる味の増強やポリフェノール類のほんのりとした苦味が作物の味の質を高めている可能性もあります。

※グルタチオンは光合成が盛んな葉でよく蓄積されている物質です。


最後に葉面散布は今回紹介したアミノサンプロや粉の地力薬師以外でもノウハウが蓄積されています。



弊社のノウハウは土壌散布と葉面散布の実践手引き(有料)に予防薬と合わせて記載があります。

土壌散布と葉面散布の実践手引きは京都農販が関与しているイベントや勉強会で入手することができます。

京都農販の取り組み


補足

グルタチオンについて

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近年レバーやホタテ貝、魚醤、ニンニク、タマネギ、酵母エキスといった食べ物に含まれるグルタチオンのような小さなトリペプチドが、舌上のカルシウム感受性チャネルを刺激することによってこく味が引き起こされると報告されています。グルタチオン自体に味はありませんが、苦味を抑え、塩味、甘味、うま味を増強します。なお、酸味への影響は明らかにされていません。しかし、わずか2〜200ppmといった微量でもこく味を感じさせる効力があります。

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食感をめぐるサイエンス - 株式会社 化学同人 14ページより引用


補足2

グルタチオンには抗酸化作用があります。

作物の収穫量・品質向上に関与するグルタチオンの機能解明 - 農林水産技術会議

2-アミノ酪酸による新たなグルタチオン代謝制御機構を発見 -錆びない体づくりの秘訣として期待- | Research at Kobe

菌根菌に関して肥料でどこまで出来るか?

投稿日:2020-03-03  

前回の殺菌剤の使用を見直すことが秀品率の向上に繋がるの記事の続きです。



前回の記事では作物と菌根菌の共生の観点から、虫の被害や病気を減らしつつ秀品率を高める為には、殺菌剤を減らすか使用しないということが重要であることを記載した。

殺菌剤の作用機構のイメージをより明確にすることで、殺菌剤はより効率的に使用できるようになり、殺菌剤による作物のダメージを減らし、それが秀品率の向上へと繋がっていきます。


今回は作物の耐性を増やすという観点で話を進めたいと思います。




菌根菌といっても、目には見えない微生物の話なので、自身の栽培に取り入れることが難しいかと思います。

菌根菌に限らず、微生物資材全般に言えることを記載しておくと、

/**********************************************************/

各微生物には得意な環境があって、得意な環境であれば爆発的に増殖するけれども、不得意な環境であれば、増殖できないどころか、休眠や自殺することがある。

/**********************************************************/


高価で有益な微生物資材を購入してきたとしても、使用前に土壌環境を整えていなければお金をドブに捨てる行為になるということを忘れてはいけません。



有益な微生物や病原性の微生物の生態から判断するに、ECを常に低くしつつ、土壌をフカフカにすることを目的としていてば、比較的有益な微生物が増えやすい環境に近づいていると言えます。


上記の環境を目指す上で大事な話は下記の記事に記載があります。

腐植質の肥料を活用する前に腐植について整理しよう




良い菌はどういう環境に集まるか?という観点を元に菌根菌の環境を考えてみたいと思います。

作物と共生すると言われる菌根菌は普遍的に土壌中にいるとされています。


作物は菌根菌と共生するとお互いに優位になると言われているが、共生には双方にそれなりのコストがかかる上、菌の住処が植物の根であるので



作物側で発根が活発な環境であることが大事であることが重要であるはずです。

発根促進に関しては下記の記事に記載があります。

生育状況の確認と発根促進に関すること




次に菌根菌に関して最近の興味深い研究報告を紹介します。

アーバスキュラー菌根菌の純粋培養に世界で初めて成功~微生物肥料としての大量生産に道~ - 国立研究開発法人 科学技術振興機構

上記の論文の要点は2つで、土壌中に普遍的にいる細菌(バクテリア)や植物油に含まれる脂肪酸を含めて培養すると、菌根菌の増殖が活発になるというものです。

※油分を酵母等の微生物が分解すると上記の脂肪酸になる

パニエバシラス属 - Wikipedia

パルミトレイン酸 - Wikipedia


上記の研究報告が作物にとっても有効であるか?という論点はありませんが、有効であると仮定して話を進めます。


※図:堀越孝雄、二井一禎編著 土壌微生物生態学 - 朝倉書店 12ページより引用


上の図は土壌構造と微生物のすみかということで、土壌微生物が土壌中でどういうところにいるかをイラスト化したものとなっている。


用語の整理をしておくと、

・菌類の菌糸→菌根菌を含む糸状菌の菌糸

・1次鉱物→粘土鉱物ではない鉱物

・2次鉱物→粘土鉱物

となっている。


ここで注目したいのは、菌糸は土壌の間隙(≒気層)にいて、細菌は粘土鉱物や植物の根の近くにいることになっている。

上記の研究報告と合わせると、粘土鉱物と腐植が土に馴染んでいるところで菌根菌が活発になる可能性が高いことが言える。




余談だけれども、



最近生ゴミを土に混ぜる時に2:1型粘土鉱物を一緒に混ぜて経過を観察していたら、

2:1型粘土鉱物→地力薬師



粘土鉱物の持つ吸着性が周辺の有機物や小石を吸着し、粘土鉱物がコロイド化し、



上の写真のように土壌粒子内に粘土鉱物が微細になって入り込み、いずれは粘土鉱物が見えないぐらい小さくなりながら、土壌粒子を接着するように馴染んでいく経過が観察できた。

上の写真の数日後は空気がふんだんに入るような団粒構造のような形を形成していた。


話を戻して、土壌粒子に溶け込んだ粘土鉱物に土壌の細菌が住み着いて、土壌微生物の多様性というものが増す事になる。




話を菌根菌の培養の研究報告に戻して、菌根菌の培養のもう一つの条件の方を見てみる。

もう一つの条件に挙がっていたのが、植物油に豊富に含まれる脂肪酸が菌根菌の増殖にとって重要であるそうだ。


普段の肥料で脂肪酸を豊富に含んでいる肥料は何だろう?と考えてみて浮かんだものが、



米ぬかや油粕等の食品残渣系の有機質肥料があった。

米ぬかという言葉で連想する堆肥として、


マッシュORG


キノコの廃菌床由来の堆肥がある。

キノコ栽培を行う時、キノコの餌として米ぬかを添加する。

米ぬかは菌の働きによって分解され、堆肥中にもそれなりの量が残るとされます。

※有益な微生物を米ぬかで活発にしたというイメージ


廃菌床を土に馴染ませるという観点から土作りを始めることが秀品率を高める上での重要な一歩になるかもしれません。


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殺菌剤の使用を見直すことが秀品率の向上に繋がる

投稿日:2020-03-01  

先日の京葱SAMURAI株式会社様向けで秀品率の向上の為に意識すべきことの話をさせて頂きました等での内容になりますが、栽培を苦戦している要因として、殺菌剤や土壌消毒という言葉に対して過度に信用していることが様々な問題を起こしているのではないか?と予想しています。

今回はより秀品率を高める為に殺菌剤の使用時に意識したいことをまとめます。

結論から伝えますと、殺菌剤の使用を誤ると、病気の発生率が格段に向上すると予想しています。


今回は様々な視点から上記の予想の説明を記載することにします。




※図:京都大学学術出版会 菌類の生物学 53ページより引用


菌根菌というものがあります。

菌根菌とは植物の根と共生する糸状菌の仲間で、菌根菌に感染した植物の根に菌根という非常に細い根が無数に生え、植物は菌根菌に栄養を与える代わりに、菌根菌から植物の根では吸収が難しいようなリンや微量要素を得るという共生関係を結びます。

菌根菌に感染した植物は菌根菌から頂いた特殊な糖によって、乾燥や寒さに強くなったり、菌根菌からの感染の刺激をトリガーとして、虫害への耐性が強くなると言われています。

※詳しく知りたい方はトレハロースやジャスモン酸で検索してみてください。


整理すると、菌根菌と共生した植物は食害を受けにくく、食害を受けたとしても、微量要素を快適に吸収し続けている為、傷の回復がはやくなります。




ここで植物の病気の感染経路を見てみます。

病原性微生物の感染経路として、作物の栽培では大きく3種類の経路があると言われています。

・うどんこ病等の葉の表面を無理やり穴を空けて感染する(メラニンによる圧力)

・葉の裏にある気孔から侵入して感染する

・細菌やウィルス等で虫にかじられた穴から侵入して感染する


もし、虫による食害被害が減ったのであれば、もしくは傷がはやく回復するのであれば、三番目の傷穴からの感染の確率は大幅に削減出来ることになるわけで、菌根菌との共生した植物では虫への耐性が増し、同時に病気になりにくくなったと言えます。




ここで一つ興味深い研究結果を紹介します。

西田 貴明 特集2 ミクロな世界からの新展開 アーバスキュラー菌根菌が地上部の植食性昆虫に及ぼす影響 -植物と昆虫の相互作用研究における地下部からの視点- 日本生態学会誌 57:412 - 420(2007)


要約しますと、

菌根菌と共生した植物では葉食性昆虫や潜葉性昆虫に食害されにくくなり、(カーバメート系)殺菌剤を使用した実験区では食害されやすくなった。

※ただし、すべての昆虫で同様のことを言えたわけではない。


研究報告ではオオバコで試験をしていますが、おそらく作物全般に当てはまると捉えて良いはずです。



殺菌剤を利用すると、菌根菌も菌であるため、何らかの悪影響を与えるのは容易に想像出来、菌根菌との共生が弱くなることで、虫に対して弱くなり、虫害によって病気になる可能性が増すと言えます。


であるので、極力殺菌剤の使用は控えた方が良いと言えます。




殺菌剤についてもう一つの視点を紹介します。

殺菌という言葉を聞くと、おそらく薬剤を散布したら、薬剤に触れた病原性微生物が即座に消滅するというイメージがあるかと思いますが、殺菌の定義について調べてみますと、

/************************************************************/

殺菌は文字通り菌を殺すことである。対象や程度は保証されない。極端な話をすれば、1%の菌を殺して99%が残っている状態でも「殺菌した」と言える。

/************************************************************/

殺菌#殺菌より抜粋


農薬としての殺菌剤の作用点を見ると、大半の殺菌剤は病原菌を徐々に弱体化させつつ、いずれ無毒なところまで個体数を減らして症状を治すことになっていて、病気が蔓延した状態では効果を発揮しないものが大半です。

※上記の内容は朝倉書店から出版された新版農薬の科学を参考にしています


病原菌に限らず、すべての微生物で言えることですが、環境条件に当てはまった微生物は個体数を爆発的に増加させ、当てはまらなかった微生物は増加することはないという鉄則があります。病気が蔓延したということは、病原菌にとって増殖しやすい環境条件が揃ったということになります。

土壌の微生物にとっての餌とは何だろう?


整理しますと殺菌剤は予防的に活用する際は効果を発揮しますが、治療を目的とした時は効果は薄いという事になり、病気が大発生した時に殺菌剤を使用すると、作物は菌根菌等の有用な菌にまで悪影響を与え、虫への耐性が減ることで病気になりやすくなるといった悪循環に陥る可能性があります。

※病気が蔓延している環境では、病原菌の増殖が優勢で、有益な菌が抑えられている状態ですので、殺菌剤によって有益な菌が弱り、病原菌をより優勢な状態にする可能性があります。




それでは作物が病気になった場合はどうすれば良いのか?という質問が挙がると思います。


有効な手段として、

酸素供給剤の殺菌作用についてに記載されている内容であったり、



弊社のノウハウをまとめた土壌散布と葉面散布の実践手引き(有料)に具体的な記載があります。

作物が病気にかかった時こそ、巧みな追肥で作物を強くすることが有効です。


土壌散布と葉面散布の実践手引きは京都農販が関与しているイベントや勉強会で入手することができます。

京都農販の取り組み


余談ですが、

作物が菌根菌と共生することでリン酸や微量要素の吸収能力が向上し、作物の栄養価や味が改善される可能性があります。

殺菌剤の使用を適切にすることで、美味しく健康的な作物の栽培に繋がるかもしれません。


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京葱SAMURAI株式会社様向けで秀品率の向上の為に意識すべきことの話をさせて頂きました

投稿日:2020-02-27  



京葱SAMURAI株式会社様向けに秀品率の向上の為に意識すべきことの話をさせて頂きました。

昨今の菌根菌の解明された研究報告の論文を元に、殺菌剤を使用するということが虫に対する耐性を下げる要因や食味の低下の要因になる可能性の話に触れ、極力殺菌剤は使用しない方法の模索や、不本意ながら殺菌剤を使う事になった時に使用後にどのような対策をとれば、以後の栽培が不利な状況にならないか?といったことに触れました。


これから虫害で頭を悩ませる季節に突入する中、今回の話が少しでも問題解決のお役に立てることができれば幸いです。


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リン酸過剰問題を緑肥で解決する時に意識すること

アミノ酸の葉面散布は効果がありますか?


硝酸石灰は元肥で有効ですか?という質問に対して2

投稿日:2020-02-17  

硝酸石灰は元肥で有効ですか?という質問に対しての記事で、硝酸石灰が元肥で有効か?という質問に対して、元肥には向いていないと記載しました。

元肥に向いていない理由は2つあり、前回の記事では硝酸石灰(硝酸塩)が水溶性で、水溶性の肥料は追肥で効果を発揮するという内容を記載しました。


今回はもう一つの理由である石灰についての説明になります。



土壌分析の結果を見ると、大半の土壌で石灰の値が大きい結果になっています。石灰というのは様々な肥料に入っていて、石灰のイメージとは程遠い


マッシュORG


廃菌床堆肥のマッシュORGや

※キノコ栽培の培地に有機石灰を入れるため


地力薬師


粘土鉱物肥料の中にも若干含まれています。

有機配合肥料にも石灰が含まれることが多く、知らぬ内に土にたくさん入ってしまうものが石灰になります。


石灰が過剰になると、他の肥料成分の吸収を阻害するという問題があり、



土壌分析でたとえ苦土が適正値であったとしても、石灰が過剰であれば、苦土の吸収を阻害し、秀品率に悪影響を与えます。

石灰過剰によって光合成に関与する苦土(マグネシウム)や根肥であるカリの吸収が落ちることで根から水や肥料の吸収が落ち、吸収低下によって石灰の吸収が落ちるという悪循環が発生します。

所謂石灰過剰による連作障害です。


ここで一つ補足ですが、石灰自体は必要な要素になるので、元肥は他の肥料に含まれている石灰分で栽培を開始し、追肥で補うというイメージを持つと良いです。




栽培技術が高い地域では栽培開始前のpH調整でも石灰を入れません。

それでは栽培開始前のpHは何で行うのか?というと、


ロングマグ


生理的塩基性肥料のく溶性苦土を利用したり、


マッシュORG


土作りでpHを変動させない緩衝性の向上でそもそもpH調整を行わないということを行います。

※pH調整の石灰の施用を止めれば、廃菌床堆肥内の石灰分は許容範囲内です。


詳しい内容は下記の記事に記載があります。

土壌のpHを上げたい時は


硝酸石灰は、硝酸と石灰のどちらも元肥で使用すると作物の根にストレスを与える要素なので、元肥という大量に与えるタイミングでは慎重に使用したい肥料になります。


追記

硝酸石灰は低温時でも即効性がある窒素肥料になります。冬に向けて寒くなっていく中で肥料を効かせたい場合に効果的な肥料になります。

硝酸石灰は元肥で有効ですか?という質問に対して

投稿日:2020-02-16  

硝酸石灰を元肥に使用したら有効ですか?という質問がありましたので、今回はその返答を記載します。

先に結論を記載すると、硝酸石灰は元肥には向いていません

元肥に向いていない理由は2つありますので、これからその理由を記載します。


元肥に適した無機肥料の選定を行う上で大事になる概念として、水への溶けやすさがあります。肥料は水に溶けることによって効くという原理があり、水に溶けなければいつまで経っても効きません。水に溶けやすい肥料は水溶性と記載されることが多く、水に溶けにくい肥料をく溶性や難溶性と記載されます。


水に溶けなければ肥料は効かないのであれば、水に溶けにくい「く溶性」や難溶性は肥料として使えないのではないか?という疑問が生じますが、元肥では水に溶けにくい「く溶性」の理解が重要となります。


く溶性に簡単に触れておくと、水にはほぼ溶けず、く溶性肥料は根酸や生理的酸性肥料によって溶ける肥料になります。

土に仕込んだ時は水に溶けず土壌中にそのまま残り、



植物の根がある程度成長して、作物が欲しいタイミングで少しずつ溶けて効く肥料が「く溶性」肥料になります。

水溶性肥料は栽培者が作物に効かせたいタイミングで効果を発揮する肥料で、く溶性肥料は作物の成長の都合で効く肥料となります。

イメージとしては、水溶性肥料が追肥向きでく溶性肥料は元肥向きと捉えて良いでしょう。




水溶性とく溶性の違いを見た上で、元肥の方に話を戻します。

元肥では初期生育を促進させたいということで栽培者の都合で効かすことが出来る水溶性の肥料を使用したいところですが、二点程問題があります。

一つは降雨によって土壌中の肥料が溶けてどこかに流れてしまい、栽培後期まで肥効を持たすことが出来ないことと、



土壌のEC値を高めるという特徴があります。EC値は水溶性肥料の残量になっていまして、EC値が高いと作物がストレスを感じます。

EC値を高めるとどのような問題になるか?について知りたい方は下記の記事をご覧ください。

ハウス内の塩類集積対策について


これから栽培をはじめるというところで、作物にとってストレスになるような環境にするわけにはいきませんので、元肥には水溶性はできれば避けたいということになります。




次に気になるのは元肥で使用する予定の肥料が水溶性であるかどうか?になりますが、肥料袋に水溶性と記載されていれば良いですが、そうで無い時にどうしてよいか不安になるかと思います。


ここで一つ使いやすい指標を記載しますと、肥料の成分で塩化〇〇、硝酸△△、硫酸××と書かれた肥料は比較的水に溶けやすい性質があります。

一方、炭酸〇〇やリン酸△△と記載された肥料はく溶性の性質があります。

※〇〇、△△や××には石灰や苦土といった肥料成分の名称が入ります。


一例を挙げますと、元肥に苦土(マグネシウム)が有効だと聞いた時に、様々な苦土肥料があります。

有名どころで天然硫酸苦土肥料のキーゼライトがありますが、これは硫酸××の肥料ですので、水溶性の肥料で追肥に向くことになります。

他に苦土石灰の苦土は炭酸苦土肥料になりますので、く溶性で元肥向きになります。


これらの内容を踏まえた上で、冒頭の硝酸石灰は元肥に使えるか?という質問の返答になりますが、これは硝酸△△の肥料になりますので、元肥には向いていないことになります。


余談ですが、



元肥としてよく使用される牛糞等の家畜糞ですが、熟成すればする程、硝酸態窒素の量が増えるという話を聞いたことがあるかと思います。

今回の話を踏まえると、牛糞の大半は硝酸△△の肥料になり、ECを高める水溶性ということになりますので、元肥には向いていない事になります。




ここで一つ疑問が生じるかと思います。

元肥では水溶性の肥料は使用してはいけないのか?という疑問ですが、水溶性をほぼゼロにすると初期生育は期待したものにならないということになります。元肥に水溶性の肥料をどれくらい含めるか?という問題に関して、オススメの肥料があります。


ロングマグ - 株式会社京都農販


ロングマグという苦土肥料になりますが、主の苦土がく溶性の苦土になりますが、初期生育の為に少々水溶性の苦土成分も含まれています。EC値をあまり高めず、初期生育から後期まで苦土肥料をバランスよく効かすことが可能となります。


硝酸石灰が元肥には向いていない理由はもう一つありますが、それは次の記事で記載します。


補足

硫酸××肥料といった◯◯酸という名称から土壌に肥料が残った場合の残留性の症状が判断できます。

HATAKEカンパニー様で防除について話をさせて頂きました

投稿日:2020-01-29  


HATAKEカンパニー様の社内研修の一貫として、農薬、緑肥や肥培管理での防除の話をさせて頂きました。

(株)HATAKEカンパニー | ベビーリーフ・レタスミックス、葉物野菜、ハーブ、根菜のHATAKEカンパニー


今回の話によって秀品率の向上に貢献できれば幸いです。


クリーニングクロップとして緑肥を育てた時に土に鋤き込んでも良いですか?

投稿日:2020-01-27  

高槻の原生協コミュニティルームで緑肥の話をさせて頂きましたの会で下記の質問がありました。

育てた緑肥は土に鋤き込んで良いですか?



この質問の背景には塩類集積のハウスで過剰な養分を緑肥に吸わせて除塩することを目的としていることがあります。



せっかく緑肥に余剰分を吸わせたのにそれを土に還して良いか悩むところ。

ハウス内の塩類集積対策について


この質問に対していつも鋤き込んで良いと返答しています。

鋤き込んで良いと返答している理由は緑肥が吸収した窒素(硝酸態窒素)は体内でタンパクに変わって、それは土壌への有機物の補給で利用出来ます。同じ窒素であっても土壌への影響は全く別物です。

有機物の投入は土壌の物理性を改善し、排水を良くしつつ保肥力を高める為、余剰成分の土壌への影響は少なくなります。


リン酸等の余剰成分の話も同様です。

リン酸過剰問題を緑肥で解決する時に意識すること


他にも鋤き込む方が良い理由はありますが、その理由はこの記事の文末に記載します。




上記の返答に対して更に質問がありました。

農林水産省のサイトの緑肥の資料でクリーニングクロップとして緑肥を利用した場合、ソルガム等では窒素やカリウムの吸収量が多いので、刈り取って土壌の外に持ち出さなければならないと記載がありましたが、それでも土に鋤き込んで良いのでしょうか?


この話を始める前に農学で一般的に考えられている内容に触れておくと、

農学や栽培の指導書ではカリウムは欠乏症を起こさないという考え方があります。

土壌鉱物由来や川からの入水でカリウムは補充されるのでカリウムは不足しないと考えられていますが、この学説も最近疑問視され始めています。


上記の内容を踏まえた上で、自身でお持ちの土壌分析の結果を眺めてほしいのですが、



ハウスで家畜糞を連投しているところを除くと慢性的にカリウムは不足している傾向にあります。

この理由として土壌の酷使があり、有用な金属系の肥料の元となる鉱物が消耗され尽くされているという背景があります。


有用な土壌の鉱物が消耗され尽くされているという背景の元でハウスの方を考えてみると、



土壌分析値としてカリウムが多くなっていますが、おそらくこれは家畜糞由来のカリウムで、家畜糞の連投によって土壌の鉱物は消耗されている可能性は十分に有り得ます。

もう一点注目してほしいのが、家畜糞という有機物量が大いにも関わらず、保肥力が少ないということ。

※家畜糞特有のECを上げる硝酸態窒素が多いにも関わらず、本来必要なCECの要素となる腐植が少ないことから判断しています。おそらくこの畑は物理性が悪くECが上がりやすい状態であるはずです。


土壌の保肥力が上がると相対的にカリ、石灰と苦土の値は下がります。

ここからカリは余剰に見えるけれども、それは保肥力が低いからであって、本来欲しい腐植の量が増えるとカリウムの量は大したことはないということになります。そこに土壌の鉱物は消耗している可能性も十分あるということを加えると、緑肥で畑の外にカリウムを持ち出すという行為は勿体無いことになります。


窒素のところで触れましたが、土壌の物理性が高くなると余剰成分は土表面に留まらなくなるので、その観点からもカリウムの持ち出しは栽培時のカリウム欠乏を招く要因になります。




最後に緑肥を土に鋤き込むべき理由ですが、


Bishnu SarangiによるPixabayからの画像


緑肥は休耕に対して省力化しなければ本末転倒です。刈り取りして有機物の量を減らして、植物性堆肥を再投入するのは人件費と肥料の購入の経費の面で勿体無いです。

余剰成分の土壌への還元が心配であれば、緑肥を鋤き込んだ時に

ハイブリットORGバークあたりの養分の少なく且つ、土壌の物理性や化学性を高める資材を投入すれば良いです。

団粒構造を作りやすい腐植の種類などはありますか?


土壌の化学性が向上すれば、緩衝性が増し、余剰成分に対して土の方でなんとかしてくれます。

石灰過剰の問題は緑肥の活用が巧みな方は次作から石灰系の肥料を極力入れないという対処をされています。

緑肥後の栽培では作物の発根量が増していて、収穫による養分の持ち出しもあるので、その次の作の頃には理想に近い値になっているはずです。


最後に注意ですが、

今回の話は東日本大震災後の緑肥によるセシウムの除去等の話は除きます。


緑肥を活用する前のオススメ記事

緑肥を利用する前の注意事項をまとめました


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腐植質の肥料を活用する前に腐植について整理しよう


余談

カリウムは土の粘土鉱物と有機物が結合する際に重要であると考えられています。カリウムを除くと土への有機物の蓄積が抑制される可能性があります。

カルシウムで団粒構造形成を促進を謳う土壌改良剤 - saitodev.co

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