年々増える猛暑日対策として、中干し無しの稲作に注目しています

投稿日:2022-08-18  

今回の内容は近畿中部の稲作になります。

収穫時期が9月上旬〜10月上旬を想定しています。



稲作の栽培に注目しています。


稲作に注目している理由は

肥料の使用量が少なく、肥料の海外依存率を低くできる

年々増え続ける猛暑日に対して強い

腐植の蓄積が容易で、大気中の二酸化炭素を田に埋めることができる

ということがあります。



稲作が他の作物の栽培と大きく異なる点として、田に川から水を入れるということがあります。

川の水には上流域にある鉱物由来の様々な栄養素が含まれていて、田に入水することでリンや金属系の肥料分が入ってくることになります。

他に田の土壌にいる細菌によって窒素固定が頻繁に行われているという報告もあり、これらの要因から他作物と比較して肥料の使用量が格段に少ないということを実現しています。

水田土壌における増田曜子等 鉄還元菌窒素固定の発見と応用―マイクロバイオーム解析から低窒素農業へ― - 土と微生物(Soil Microorganisms) Vol. 74 No. 1, pp. 2–7(2020)

鉄で土を肥やす!低窒素農業 | 広報誌『弥生』 | 東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部




稲作と猛暑日ですが、

植物が根から水を吸い上げ、葉の裏側の気孔から蒸散する際に、体内の熱も一緒に放出します。

猛暑日対策


お盆前後に田に水があることで、日中の最も暑い時間帯でもイネが高温障害を受けにくくなります。




田に水を張ることはイネ以外の周辺の畑地にも良い影響をもたらします。

田んぼは水を管理する | 田んぼがもつ役割 | クボタのたんぼ [学んで楽しい!たんぼの総合情報サイト]のページに拠ると田の水の蒸発とイネの蒸散により、周辺の気温が下がります。



年々猛暑日が増え、植物の光合成できる温度帯を超える事が多い中で、田があることで周辺の作物にとっても高温障害を緩和する可能性を秘めています。





田に水を張ることにより、田の底は酸素が少ない嫌気環境になります。

嫌気環境では土壌の微生物等による有機物の消費が減るので、消費されなかった有機物が蓄積します。


蓄積する有機物は光合成産物が大半で、光合成産物は二酸化炭素を固定したものになりますので、田の底に二酸化炭素を固定することに繋がります。

田に二酸化炭素を固定することに関して、カリ肥料を控えることで蓄積量が向上するという研究報告があります。

炭素化合物の蓄積が増えれば増える程、土壌環境が良くなり生産性が高まりますので、畑地や水田に二酸化炭素を埋没させる事は主流になっていく可能性があります。

(研究成果) カリウムの施肥量を抑えた水稲の栽培方法により土壌中に難分解性炭素が蓄積することを発見 | プレスリリース・広報




昨今の気候変動から中干しという工程の必要性に付いて考えるようになりました。



中干しというのは、7月下旬からお盆前あたりまで、土を乾かす為に田から水を抜くという技術で、土表面にヒビが生えることにより、イネの根に酸素を供給して発根を促進しつつ、肥料の効きを抑えて無効分げつの発生を抑え、肥料の無駄効きを減らすことを目的として言われています。


畑作の方で様々な畑を見ていて、稲作の中干しには深刻な問題が潜んでいるのではと考えています。

畑作では雨が降らず乾燥の日が続いた時に土表面にヒビが生えるような畑の土はダメな状態だとされています。

ヒビが生えるというのは有機物量が少なく、作物の根に多大なストレスを与え、収量に悪影響を与えます。


土表面のヒビ割れは畑作はダメで、稲作では推奨される事に違和感を感じました。


もう一つ重要な事として、イネは植物学では抽水植物と呼ばれる水草に分類されています。

水草であるので、


ROL バリア:湿生植物の過湿状態の土壌への適応を支えるしくみ - 根の研究(Root Research)25 (3):47-62 (2016)


根の先端に酸素を運搬?する仕組みがあります。

根の先端に酸素を送ることができるのに、わざわざ劣悪な状態のヒビ割れ状態から酸素を送る必要があるのだろうか?


そこで、中干しをしないことで調子が悪くなった株を見てみると、



根がガスにやられたような症状になり、根量が減っていました。

中干しによる発根促進というのは、実際には水を張ることによって嫌気環境になったことで発生したガス(硫化水素等)に当たって根が消滅しないようにガス交換をするという解釈が適切です。

図説:中干しの効果 | NARO 農研機構 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構

梅雨時期の大雨対策


年々猛暑日が増える中で、慣習で行う中干しの期間でも猛暑日が訪れるようになり、高温障害の回避のための中干しをしない栽培体系の開発が急務になるはずです。

土の物理性を向上させることに常にガスが発生しない、もしくはガスが常に抜ける状態にすることで中干しは不要になるという仮説を立て、物理性の向上に取り組むことにしました。


余談ですが、農文協から出版された世界の土・日本の土は今 地球環境・異常気象・食料問題を土からみると(日本土壌肥料学会 編)という本で、中干しという管理技術は歴史が浅く、中干しという急激な水環境の変化について、どのような影響があるかわかっていないと記載されています。


中干しはおそらくガスが発生しやすい硫酸塩系の無機肥料の使用に合わせて開発された技術で、それ以前では中干しはしていなかったとされているので、歴史的に見ても、中干しをしない方が安定して稲作を継続できる可能性は高いです。




物理性の改善で行った事に関しては長くなりますので、またの機会にしますが、3年程から物理性の向上に取り組んだ方の田で興味深い事が紹介します。



一発肥料の施肥量を例年の2割減(追肥無し)で稲作を開始しても、例年通りの生育になりました。

毎年見られた興味深い事の一つに初期生育時の地上部の伸長が緩やかで、各々の茎が固く葉が大きく垂れる事なく、高温時の葉の色落ちも緩やかになりました。


畑作の話題になりますが、


ことねぎ会様で施肥と巡回で意識していることの話をさせて頂きましたより


普段話している事の一つに初期生育の伸長は緩やかな方が良いということがありまして、土壌の物理性を改善した後の栽培で初期生育で地上部の成長が遅い(と見える)場合、発根が優勢になっていて、後の栽培で吸水量と蒸散量が増し高温障害が受けにくくなる可能性があります。


他の大きな変化として、



物理性の改善後に中干しを抜くことで7月末から収穫直前の期間でオタマジャクシの個体数が増えました。

オタマジャクシはお盆期間を経て、晩夏あたりでカエルになる個体が多数います。

中干しを無しにしたことで上記のカエルのオタマジャクシの居場所ができたのでしょう。


オタマジャクシは発芽したての草の芽生えから、底にある有機物等の様々なものを食べ、田の雑草防除として役立ちます。

※観測している田では中干し時期以降に除草作業は発生せず、除草剤も不使用でした。


カエルになってからは、カメムシやウンカといった稲作の厄介な昆虫を食べるので、



周辺の田がウンカ由来のツボ枯れで苦戦している中、殺虫剤を使用せず収穫までツボ枯れを起こさず乗り切ることができました。

※カメムシやウンカは殺虫剤に耐性を持っていることが多く、カエル等の天敵は殺虫剤使用で悪影響を受けることが多いので、これからの稲作は殺虫剤に頼らない栽培体系にシフトした方が良いです。

害虫に殺虫剤抵抗性を持たせる共生細菌を発見 -殺虫剤抵抗性は害虫自身の遺伝子で決まるという常識を覆す- (共同プレスリリース 2012年4月23日)- 農業環境技術研究所




稲作で土の物理性を高め、中干しをしないことで、肥料と農薬にかかる経費を削減しつつ、二酸化炭素排出量にも貢献して収量は今まで通りを維持することができます。

更には周辺の畑地で栽培している作物にも良い影響を与え、稲作には巷で言われている持続可能な技術開発の要素がふんだんに含まれています。


改めて書きますが、これから更に増えるであろうと言われている猛暑日対策として、稲作を中心に農業環境を整備していくことが急務であることは間違いないです。




余談ですが、田に水を張ると温室効果ガスとして有名なメタンガスの発生源になるので稲作は環境負荷が大きいという話題を時々見聞きします。

メタンガスは炭水化物系の有機物を嫌気環境下に置くことでメタン生成細菌によって発生しますが、田の鉄還元細菌の窒素固定と競合して、鉄還元細菌の方が優位な場合はメタンガスの発生量が減るという報告があります。

復元田では土壌酸化鉄還元との競合によりメタン発生量が低減する - 農研機構


鉄還元細菌が活発になるには硫化水素の発生を抑える必要がありますので、持続可能な稲作を目指すためには最初に土の物理性の向上に着手することは間違いないです。


追記

今年は元肥に用いる一発肥料が意図通りの肥効にならずに追肥(穂肥)をしている方を頻繁に見かけます。

観測している物理性を改善した田では減肥をしていますが今のところ、追肥をせずに例年通りの生育をしています。


補足

初期生育で発根が促進されていれば、その後の栽培で吸収が難しい微量要素の吸収が活発になり、様々な二次代謝産物(食害性昆虫や病原性の菌への耐性や周辺の草の発芽抑制)の合成が活発になります。

網干貴子 植物の防御機構に関わる二次代謝物-ストレスから身を守れ!植物体内で誘導される様々な生理活性物質- 日本農薬学会誌 44(2), 248 日本農薬学会誌 ‒249 (2019)



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