京都農販日誌

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土壌の微生物にとっての餌とは何だろう?

2019/04/08

秀品率向上の為に土壌の微生物を豊かにしよう。

このようなフレーズを良く見聞きし、土壌の微生物環境を良くする微生物資材というものが沢山ある。


その中で良く挙がるのが、

微生物の餌を与えて土壌で有用な微生物を増やそう

という肥料をよく見かける。


微生物を増やすこと目指す事は良いと思うのですが、

闇雲に土壌の微生物の為の資材を使うと、

微生物という目に見えないものなので費用対効果の判断が困難で知らない内に経費の無駄遣いということになりかねない。


そこで微生物資材を活用する前の参考になるように土壌の微生物についてまとめることにしよう。




はじめに栽培者が有用な微生物群に求めるものこととして、

・土がフカフカになること

・作物の栄養として与えた肥料がより効率的に効いてくれること

・作物が病気にかかりにくくなること

の三点ではないかと考えている。





土がフカフカになるということは、

バーク堆肥等で土の排水性や保水性が向上することを指しているので、

前回の腐植質の肥料を活用する前に腐植について整理しようで触れた



難分解性有機物である木材(リグニン質)の有機物が土壌の微生物によって分解されながら土壌粒子として混ざりあえば良いことになる。


リグニンが分解される過程で関与する微生物をイメージしやすくする為には、



キノコの栽培のノウハウが良い教科書となる。


キノコが後に腐植となるリグニンを分解する際、炭水化物からエネルギーを取り出して、そのエネルギーを元にリグニンを腐植酸へと代謝して土壌に蓄積させているだろうと考えられている。

西村裕志 木に学ぶ、きのこに学ぶサイエンス



キノコの菌床栽培のノウハウを見ると、

主栄養源はコメ糠ムギ糠(フスマ)トウモロコシ糠小麦粉など

補助栄養源は貝殻カルシウム塩木酢液ビール酵母粕等、pH調整や成長促進剤など

で構成されていることから、

菌床栽培 - Wikipedia


土をフカフカにする為の微生物の餌として考えると、

穀物由来の炭水化物あたりになるだろうということが分かった。


リグニンは非常に壊れにくい有機物であるので、

分解には強力な作用を引き起こす事ができる銅のような各種微量要素が必要になるため、

糸状菌等の餌として亜鉛ミネラルを忘れてはならない。


更にもう一点注意があって、

キノコは周辺に窒素分が多いとリグニンの分解が弱まってしまうので、

木質資材主体の堆肥作りで窒素分の補給として家畜糞を入れる慣習はNGとなる。




続いて、

肥料分が効率的に効いてくれたり、病気にかかりにくくなる為に微生物を増やす話題に移ると、

どちらも良く挙がる微生物として細菌のバチルス属(枯草菌)やラクトバチルス属(乳酸菌)、

糸状菌でいえば菌根菌あたりがいる。

※菌根菌は難解なのでここでは触れないことにする。



植物の根が枯草菌の仲間と共生すると微量要素の吸収促進や土壌の病原性細菌による病気の感染を抑制するという報告がある。

広岡和丈 植物の生育促進への利用に資する,枯草菌の転写応答機構の研究


土壌で活性があるか不明だが、乳酸菌には周辺の細菌の増殖を抑えるという報告がある。

乳酸菌バクテリオシン -探索から応用まで- 一般社団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会 はっ酵乳、乳酸菌飲料公正取引協議会


植物の根と枯草菌の共生で頻繁に見聞きするのが、

植物の根からアミノ酸等の栄養が枯草菌に渡され、

枯草菌は微量要素を植物の根に渡す

という内容だろう。


乳酸菌は糖を分解するということで有名であるので、

これらの細菌にとっての餌を考えると、

炭水化物(糖が直鎖状に繋がったもの)やタンパク質(アミノ酸が直鎖状に繋がったもの)

ということになる。


コウジカビ等に炭水化物やタンパクを分解して、糖やアミノ酸になってからはじめて細菌が利用するかもしれないけれども、

ここらへんの話は土をフカフカするの話と重複するので直鎖状のものでも細菌は利用できるとする。




今までの話で栽培者が土壌の微生物を豊かにする為に効果のある肥料というものがわかってきた。




土をフカフカにする糸状菌には米ぬかや魚粉等の食品残渣系の有機質肥料がある。


ここで微生物の餌という観点でオススメできる肥料を紹介すると、



サトウキビの搾り粕を酵母等によってアミノ酸に分解された黒糖肥料というものがあり、

アミノ酸以外に糖や微量要素を含んでいて、

土壌の微生物を活発にする起爆剤として活用できます。


土をフカフカにするところで触れた通り、

土壌の微生物にとっても微量要素というものが重要になってくるので、

事前に微量要素をふんだんに含む地力薬師を仕込んでおくことをオススメします。


最後に今回の話で一点程注意を記載しておくと、

土壌微生物に限らず、どの生物にも言えることで、

環境に一番合った生物が活発に増殖するということがあり、


栽培での有用菌に不利な環境であれば、

微生物の餌として与えた肥料も逆効果になってしまう。


特に病原性の細菌は排水性の悪いところで活発に動く傾向があるらしいので、

微生物の餌に頼る前に土壌の物理性を意識しておく必要がある。


土壌の物理性は下記の記事を参考に土壌に腐植を蓄積させることを最優先にする。

腐植質の肥料を活用する前に腐植について整理しよう


読み物

白色腐朽菌とトリコデルマの戦い - saitodev.co

植物の根と枯草菌のバイオフィルム - saitodev.co

イネ科緑肥の再考のアレロパシー編 - saitodev.co

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