京都農販日誌
緑肥を活用して、土壌の物理性の向上を早める
2020/01/17
地力薬師という粘土鉱物系の肥料があります。
腐植系の肥料と併用することで土壌中の腐植の蓄積を助ける働きがあると謳っている肥料になります。
島根県出雲市で採掘される鉱物で、このあたりで採掘出来るものとして緑色凝灰岩というものになります。
地力薬師の肥料袋から中身を取り出し、注意深く見てみると、淡い緑色の石が入っています。
この石は2:1:1型粘土鉱物の緑泥石(英名でクロライト)と呼ばれている鉱物が含まれている可能性が高く、JAの施肥診断技術者ハンドブックによると2:1:1型粘土鉱物は作物の生育に好ましい性質を有すると記載されています。
※JA全農 肥料農薬部 施肥診断技術者ハンドブック 2003 32ページより引用
この緑泥石ですが、粘土鉱物に求める性質の一つであるCEC(陽イオン交換容量:保肥力)を見ると、地力薬師の主成分であるモンモリロナイトが60〜100 meq/100gと記載されているところ、緑泥石のCECはなんと2〜10 meq/100gで、相当の差があります。
ちなみによく話題に挙がる1:1型粘土鉱物のカオリナイトのCECが2〜10 meq/100gです。
※meq/100gはCECに用いる数字で値が高い程土壌中での肥料の保持能力が高いとされます。
CECの観点から緑泥石を見ると優れた肥料には見えませんが、植物の根による物理的な風化作用と有機酸による処理(化学的な風化)によってモンモリロナイト並のCECに上がるという特徴があります。
緑泥石の風化ではもう一点素晴らしい機能がありまして、風化の際にミネラル(微量要素)が溶脱して、植物の根でこれらの成分を吸収できるようになります。
※朝倉書店 白水晴雄著 粘土鉱物学 -粘土科学の基礎- 新装版を参考にして記載
※根から分泌される根酸でも同様の効果が得られるはずです
これらの話をまとめると、地力薬師の肥料は施肥した直後は効果が低く、植物が伸長するに従って効果が高まっていく肥料であると言えそうです。
緑肥を採用する目的の一つに団粒構造の形成により土壌の物理性の改善があります。物理性を改善する過程において植物の根の作用が重要であるとされています。
植物を一株抜いて発根を観測してみると、(特に単子葉で)固いところを貫くように伸長し、貫かれた固まりを指で潰すとすぐに崩れます。
これは植物の根による鉱物の風化作用の一種だと言えます。この風化を経て、土壌中の固い箇所は細かく柔らかくなります。
根による風化作用と緑泥石の話を合わせると、発根が活発になればなるほど、粘土の持つ吸着性は増し、周辺の腐植と結合して良い土へと変化していくと言えます。
緑肥を利用する前の注意事項をまとめましたの記事で緑肥の播種の前に土壌改良材を施用し発根量を増やすべきだと記載しましたが、土壌改良材によって環境が良くなることで発根量が増し、それに伴い粘土鉱物の効果が高まり次作へと繋げることが出来ることになります。
緑肥は作物の栽培と異なり、本来通路である箇所や株数が多く、栽培中では効果を発揮しないような粘土鉱物にも作用し、これに合わせて、地上部の茎や葉が茂り鋤き込んだ際の有機物量も大幅に増え、土に還る腐植の量も増える事になります。
緑肥が堆肥の土壌改良の効果を高める。
この視点があると栽培は更に有利になるはずです。