京都農販日誌

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病原性のカビの天敵は何か?

2022/11/03

病害虫の被害の軽減の策として天敵を利用する方法があります。

天敵の例を挙げると、カメムシやウンカの天敵はカエル、チョウ目の幼虫の天敵はアシナガバチ等


天敵は食害性昆虫に注目が行きがちですが、病原性のカビ(糸状菌)でも天敵の話を時々見かけますので、カビの天敵について見ていきます。




病原性のカビ限定の話題ではありませんが、カビを捕食するカビとしてボタンタケ科のトリコデルマがいます。

トリコデルマはシイタケ菌を捕食するという厄介なカビというイメージがありますが、作物に病原性を示すカビを抑えるという報告もあります。

Trichoderma Species: Versatile Plant Symbionts Phytopathology Vol. 109, No. 1 January 2019


市場にトリコデルマの資材はたくさんありますが、事前にトリコデルマの好む環境にすることは必須ですが、目には見えない微生物であるため成果がわかりにくいという問題があります。


ここで一つ興味深い話を紹介します。


U. Burkhardt - Taken and uploaded on de:WP the 01/06/2006 by de:Benutzer:Onychiurus, CC 表示-継承 3.0, リンクによる


トビムシやササラダニが作物にとっての病原性のカビを捕食するという報告があります。

※トビムシが病原性のカビを捕食する報告はいくつかありますが、下記のURLの高校生の報告が読みやすかったのでリンクを掲載します

トビムシと伝染性植物病原菌 - 化学と生物 Vol. 51, No. 4, 2013


ここで更に興味深い話を紹介すると、



ミミズが通ったミミズ孔にトビムシが集まり、カビを捕食しているそうです。

中村好男著 根の生育環境としてのミミズ - 根の研究(Root Research) 10(4):127-133(2001)


昔からミミズがいる土は良い土という話がありますが、上記の関連から「ミミズが活発な土は作物が病気になりにくい」ということが言えそうです。




ミミズとトビムシの話を栽培で活用したいと思った時に何をすれば良いか?になりますが、


マッシュORG


廃菌床堆肥を施肥した土でよくミミズを見かけるようになります。

廃菌床はキノコ栽培時に使用した培地で、キノコに与えた米ぬか等の有機質の資材が残っていて、堆肥として施肥した際にそれらの有機物にミミズが集まってくるのでしょう。


培地栽培をするキノコといえば白色腐朽菌というカビ(糸状菌)で、細菌を捕食しながら成長を続けるそうです。

廃菌床堆肥の生物性の分析(サンリット・シードリンクスさんにして頂きました)を行ったところ、ほぼ白色腐朽菌で占められていたそうです。

マイナビ農業でサンリット・シードリンクスさんとの取り組みが紹介されました


ここで冒頭のトリコデルマの話に戻すと、トリコデルマはシイタケ等の白色腐朽菌の天敵です。

廃菌床堆肥を施肥して、白色腐朽菌の環境が整うと、トリコデルマの環境も整っていく可能性が高く、トビムシと合わせて作物に対しての病原性のカビの天敵が増えるという展開に繋がるかもしれません。


ここでトビムシが白色腐朽菌やトリコデルマを捕食してしまうのでは?と不安が生じますが、生態系の考え方の一つに極端に増えた種から捕食され、種毎の個体数のバランスが取れていくというものがあり、病気が多発するような土では、トビムシの食性の偏りが無い限り、病原性のカビから捕食されるようになります。


ここで一点注意すべきこととして、トビムシの環境が整った状態で殺虫剤を散布するとトビムシに影響を与え、作物の発病が高まり、殺菌剤を散布するとトリコデルマ等に影響を与え、作物の発病の恐れが更に高まる可能性があります。


農薬を使用しないと食害性昆虫の被害が心配になりますが、Trichoderma Species: Versatile Plant Symbionts Phytopathology Vol. 109, No. 1 January 2019でトリコデルマと根圏で共生した植物は病気に対する耐性や天敵を誘導するサリチル酸の合成が活発になるという報告が記載されていますので、天敵を活用した栽培を行うのであれば、自身で施した対策を信じて待つという姿勢が重要になります。

新しい植物ホルモンの科学 第3版 - 講談社 p161〜168




トビムシに関してもう一つ興味深い話があります。

この話を進める前に農業問題の一つの脱窒について触れておきます。


Cicle_del_nitrogen_de.svg: *Cicle_del_nitrogen_ca.svg: Johann Dréo (User:Nojhan), traduction de Joanjoc d'après Image:Cycle azote fr.svg.derivative work: Burkhard (talk)Nitrogen_Cycle.jpg: Environmental Protection Agencyderivative work: Raeky (talk) - Nitrogen Cycle.svgNitrogen_Cycle.jpg, CC 表示-継承 3.0, リンクによる


脱窒というのは、硝酸態窒素を施肥した際に土壌の微生物らによって一酸化二窒素や窒素ガスになり気化して窒素肥料が損失するという現象です。

一酸化二窒素が厄介で温室効果ガスとして扱われ、温室効果の影響は二酸化炭素の約300倍とされています。

気象庁 | 一酸化二窒素


この脱窒に対して、トビムシが脱窒に関与するカビを捕食して、一酸化二窒素の排出を削減したという報告があります。

エッセンシャル土壌微生物学 作物生産のための基礎 - 講談社 p92


脱窒は栽培から見たら窒素肥料の損失であり、昨今の肥料の高騰に対して肥料分の損失を防ぐことが出来る価値は大きいです。

トビムシの天敵活用で、施肥量を減らしつつ農薬の散布量も減らすことになり、環境貢献しつつ利益率が高まりますので、積極的に活用していきたいところです。


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