京都農販日誌
土壌中のリン酸量と病原性のカビの振る舞いについて
2022/11/04
作物が病原性のカビに感染することに関して興味深い研究報告がありますので、今回はその内容を紹介します。
リン栄養枯渇条件下での根圏糸状菌による植物生長促進 - Jpn. J. Phytopathol. 84: 78–84 (2018)
上の図は左がColletotrichum tofieldiae(以後Ctと表記する)というカビ(菌、糸状菌)で、右が有用な共生菌で有名な菌根菌で、アブラナ科のシロイヌナズナの根での挙動を示しています。
Colletotrichum属は作物の病原菌として報告されている菌がいくつかいる属になっています。
土壌中のリン酸が少ない環境で根にCtを感染させた植物を育てたところ、宿主の植物の成長を促すことが見られました。
一方土壌中にリン酸が豊富にある場合は宿主の植物の成長を促すということはなかったそうです。
この報告で興味深い報告として、Ctと近縁種のColletotrichum incanum(以後、Ciと表記する)という菌の話題があります。
Ciはダイコンの炭疽病の原因菌として知られていますが、Ciが根に感染した際、土壌中にリン酸が豊富にある場合は宿主の植物の成長を阻害し、土壌中にリン酸が少なかった場合は、宿主の植物に少量ではあるがリン酸を輸送したということが見られました。
これは土壌中のリン酸量によって病原性だと思われていたカビが病原菌になるか、共生菌のような振る舞いをするかが決まるということになります。
※ここでいうリン酸量は無機態のリン酸を指します。
今回はダイコンの炭疽病菌のみの話題でしたが、おそらく他のカビ(菌)でも同様のことが言える可能性が高いので、
施肥時のリン酸は過剰にならないように注意深く設計する必要がありそうです。
※家畜糞で土作りを行うとすぐにリン酸過剰になります
ここで一つ厄介な問題に当たります。
病原性のカビの天敵は何か?の記事で病原性のカビの天敵を誘引するために
廃菌床堆肥のマッシュORGを紹介しました。
このマッシュORGには一点程欠点があって、土壌改良を目的とした堆肥なのにリン酸の量が多いというものがあります。
この問題を解決する為には、施肥の意識を変える必要があると考えていまして、肥料の三大要素であるNPKのうち、P(リン酸)を必須要素から外す必要があります。
土作り以外の基肥でリン酸を含めずに、リン酸は追肥のみで使用することを徹底すれば、廃菌床堆肥のリン酸が許容範囲に収まっていくと予想しています。
作物が病気に感染するというのは、病原性のカビが作物体内にある成長に重要な要素を盗るということになり、耐性や天敵の誘引に関する物質の合成量が減ってしまいます。
病気を抑えることが食害性昆虫の被害を抑えることに繋がり、殺虫剤や殺菌剤の使用回数の削減し、利益率の向上に繋がります。
減肥減農薬や有機栽培をするに当たって、今回の知見は重要になるはずです。