京都農販日誌

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殺菌剤の使用を見直すことが秀品率の向上に繋がる

2020/03/01

先日の京葱SAMURAI株式会社様向けで秀品率の向上の為に意識すべきことの話をさせて頂きました等での内容になりますが、栽培を苦戦している要因として、殺菌剤や土壌消毒という言葉に対して過度に信用していることが様々な問題を起こしているのではないか?と予想しています。

今回はより秀品率を高める為に殺菌剤の使用時に意識したいことをまとめます。

結論から伝えますと、殺菌剤の使用を誤ると、病気の発生率が格段に向上すると予想しています。


今回は様々な視点から上記の予想の説明を記載することにします。




※図:京都大学学術出版会 菌類の生物学 53ページより引用


菌根菌というものがあります。

菌根菌とは植物の根と共生する糸状菌の仲間で、菌根菌に感染した植物の根に菌根という非常に細い根が無数に生え、植物は菌根菌に栄養を与える代わりに、菌根菌から植物の根では吸収が難しいようなリンや微量要素を得るという共生関係を結びます。

菌根菌に感染した植物は菌根菌から頂いた特殊な糖によって、乾燥や寒さに強くなったり、菌根菌からの感染の刺激をトリガーとして、虫害への耐性が強くなると言われています。

※詳しく知りたい方はトレハロースやジャスモン酸で検索してみてください。


整理すると、菌根菌と共生した植物は食害を受けにくく、食害を受けたとしても、微量要素を快適に吸収し続けている為、傷の回復がはやくなります。




ここで植物の病気の感染経路を見てみます。

病原性微生物の感染経路として、作物の栽培では大きく3種類の経路があると言われています。

・うどんこ病等の葉の表面を無理やり穴を空けて感染する(メラニンによる圧力)

・葉の裏にある気孔から侵入して感染する

・細菌やウィルス等で虫にかじられた穴から侵入して感染する


もし、虫による食害被害が減ったのであれば、もしくは傷がはやく回復するのであれば、三番目の傷穴からの感染の確率は大幅に削減出来ることになるわけで、菌根菌との共生した植物では虫への耐性が増し、同時に病気になりにくくなったと言えます。




ここで一つ興味深い研究結果を紹介します。

西田 貴明 特集2 ミクロな世界からの新展開 アーバスキュラー菌根菌が地上部の植食性昆虫に及ぼす影響 -植物と昆虫の相互作用研究における地下部からの視点- 日本生態学会誌 57:412 - 420(2007)


要約しますと、

菌根菌と共生した植物では葉食性昆虫や潜葉性昆虫に食害されにくくなり、(カーバメート系)殺菌剤を使用した実験区では食害されやすくなった。

※ただし、すべての昆虫で同様のことを言えたわけではない。


研究報告ではオオバコで試験をしていますが、おそらく作物全般に当てはまると捉えて良いはずです。



殺菌剤を利用すると、菌根菌も菌であるため、何らかの悪影響を与えるのは容易に想像出来、菌根菌との共生が弱くなることで、虫に対して弱くなり、虫害によって病気になる可能性が増すと言えます。


であるので、極力殺菌剤の使用は控えた方が良いと言えます。




殺菌剤についてもう一つの視点を紹介します。

殺菌という言葉を聞くと、おそらく薬剤を散布したら、薬剤に触れた病原性微生物が即座に消滅するというイメージがあるかと思いますが、殺菌の定義について調べてみますと、

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殺菌は文字通り菌を殺すことである。対象や程度は保証されない。極端な話をすれば、1%の菌を殺して99%が残っている状態でも「殺菌した」と言える。

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殺菌#殺菌より抜粋


農薬としての殺菌剤の作用点を見ると、大半の殺菌剤は病原菌を徐々に弱体化させつつ、いずれ無毒なところまで個体数を減らして症状を治すことになっていて、病気が蔓延した状態では効果を発揮しないものが大半です。

※上記の内容は朝倉書店から出版された新版農薬の科学を参考にしています


病原菌に限らず、すべての微生物で言えることですが、環境条件に当てはまった微生物は個体数を爆発的に増加させ、当てはまらなかった微生物は増加することはないという鉄則があります。病気が蔓延したということは、病原菌にとって増殖しやすい環境条件が揃ったということになります。

土壌の微生物にとっての餌とは何だろう?


整理しますと殺菌剤は予防的に活用する際は効果を発揮しますが、治療を目的とした時は効果は薄いという事になり、病気が大発生した時に殺菌剤を使用すると、作物は菌根菌等の有用な菌にまで悪影響を与え、虫への耐性が減ることで病気になりやすくなるといった悪循環に陥る可能性があります。

※病気が蔓延している環境では、病原菌の増殖が優勢で、有益な菌が抑えられている状態ですので、殺菌剤によって有益な菌が弱り、病原菌をより優勢な状態にする可能性があります。




それでは作物が病気になった場合はどうすれば良いのか?という質問が挙がると思います。


有効な手段として、

酸素供給剤の殺菌作用についてに記載されている内容であったり、



弊社のノウハウをまとめた土壌散布と葉面散布の実践手引き(有料)に具体的な記載があります。

作物が病気にかかった時こそ、巧みな追肥で作物を強くすることが有効です。


土壌散布と葉面散布の実践手引きは京都農販が関与しているイベントや勉強会で入手することができます。

京都農販の取り組み


余談ですが、

作物が菌根菌と共生することでリン酸や微量要素の吸収能力が向上し、作物の栄養価や味が改善される可能性があります。

殺菌剤の使用を適切にすることで、美味しく健康的な作物の栽培に繋がるかもしれません。


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