
お役立ち農業辞書
微量要素
果樹園で落葉した落ち葉が土になかなか還らないという話題が時々挙がります。
原因はいくつか考えられますが、代表的なものとして土壌中で微量要素の銅の欠乏というものがあります。
微量要素は生理作用が複雑で理解し難いですが、物の合成と分解に関与のみを覚えておくだけでも様々な問題に取り掛かる事ができますので、物の合成と分解に集中して微量要素の働きを見ていくことにします。
※上記の作用は植物だけでなく、菌等でも同様の事が言えます。
微量要素には鉄(Fe)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)と銅(Cu)があります。
※他にホウ素(B)、コバルト(Co)とモリブデン(Mo)がありますが、微量要素の理解を難しくしますので、今回は触れません。
微量要素を理解する上で重要なのが、各要素の結合力になります。
結合力を弱い順に並べますと、マンガン < 鉄 < 亜鉛 < 銅になります。
結合力の働きは物を繋げたり切り離したり(切り貼り)になります。
物の切り貼りとは何なのか?ですが、例えばアミノ酸ですが、アミノ酸同士を繋げるとペプチドになり、ペプチド間の繋がりを切り離すとアミノ酸になります。
※アミノ酸同士を繋げる時は亜鉛を利用します。
※ペプチドからアミノ酸を外す時も亜鉛を利用します。
※上記はあくまで一例で、他のパターンもあります。
この物の切り貼りで微量要素が関わるのですが、結合力が強い要素程、強い化合物を合成したり分解できるようになります。
※結合力が最も強い銅は、植物で最も硬いリグニンの合成に関与し、キノコが銅を利用すればリグニンを分解できる。
微量要素で物の切り貼りを行う時に重要になる知識として、電子(e-)があります。
電子に関わる話も複雑ですが、今回抑えておくべき箇所として、物に電子を与えたり、物から電子を奪うことで物の形が変わります。
例としまして、光合成でアミノ酸を合成する際、
根から吸収した硝酸態窒素の硝酸イオン(NO3-)に電子を与えることで、有機酸(ケトグルタル酸等)と結合する形に変わり、アミノ酸と結合してアミノ酸(グルタミン酸等)になります。
※グルタミン酸を出発点として、様々なアミノ酸が合成されます。
各々の微量要素の代表的な働きについて見ていきます。
マンガンは葉で行われる光合成で、葉が太陽の光を浴びた時に得られたエネルギーを使って、水分子を切り、
水分子から電子を取り出します。
マンガンが獲得した電子を鉄に渡して、鉄は体内の様々な箇所に電子を運びます。
※電子は時々電子をこぼして、目的の場所に電子が到達しないことがありますが、この時に起こる反応が耐性に関わっていたりします。
亜鉛は鉄等から受け取った電子を利用してタンパクを合成します。
タンパクは植物の体作りで使われたり、様々な生理反応(耐性も含む)で重要な酵素の合成で使われます。
銅は今まで挙がりました電子やタンパクを使って、
植物の組織で最も硬いリグニンの合成を行います。
※リグニンは作物の葉や茎にも含まれています。
微量要素は慢性的に欠乏している事が多いのですが、欠乏症に陥っているのかが分かり難いです。
例えば、耐性を含む様々な生理作用で重要な亜鉛は世界中の穀物栽培の大半の圃場で欠乏している可能性がありますが、作物がなんとか成長出来ているので、欠乏症に気付かないまま栽培が続けられていたりします。
作物が微量要素を吸収する時、他の肥料の影響を大きく受けて、吸収が阻害されることがあります。
影響に関しては下記の通りです。
- 硝酸態窒素が過剰にある土壌ではマンガン等の微量要素の吸収が阻害される。
- リン酸過剰の土壌では亜鉛の吸収が阻害される。
- 石灰過剰でpHが下がらなくなった土壌では鉄の吸収が阻害される
土壌中に各微量要素があったとしても、頻繁に使用する肥料分のどれかが過剰になっていると微量要素の効きが期待よりも落ちる可能性があります。
微量要素の各要素の過剰症は、体内で活性酸素を大量に発生させる要因になりまして、過剰症によって内側から弱体化します。
※活性酸素は少量であれば光合成のパフォーマンスが高まったり、抵抗性が増すといった報告があります。
微量要素の施肥ですが、微量要素配合の化成肥料を使用することが一般的ですが、
米ぬかやダイズ油粕といった有機質肥料や、
鉱物系の肥料(客土を含む)を施肥することで微量要素の欠乏症を回避出来ます。
過剰症に関しては植物性の有機物(堆肥)を施肥してCEC(保肥力)を高めることで回避出来ます。