京都農販日誌
土壌のpHを上げたい時は
2019/05/17
九州の福岡県糸島市で普段見たことないような土壌分析の結果の畑に行きました。
海岸から近く、砂壌土の夏場の水やりが大変そうな土でした。
作付け前の土壌分析の結果を確認してみると、
何故か苦土が多い土壌ではあるが、砂質土特有のCECとECが低くなっていました。
ここで栽培されている方から基肥はどうすれば良いですか?と質問がありましたので、その時に返答した内容をまとめることにします。
最初に注目すべき個所は、
pHが低いことです。
pHといえば肥料の効きの指標で、pHが低い環境であると作物は石灰、苦土やカリの吸収効率が落ちます。
一方、pHが高いと鉄等の微量要素の吸収効率が落ち、pHは低くても高くても問題となる要素です。
pHと養分の吸収性 - お役立ち農業辞書 - 株式会社京都農販
営農指導員はこの結果を見るとpHが低いので石灰(消石灰、有機石灰や苦土石灰)を入れてpH調整をしましょうと提案されるはずですが、
石灰が理想的な数値であることを注意する必要があります。
石灰(カルシウム)は作物を丈夫にしたりと重要な要素ではありますが、土壌中に石灰が過剰にあると苦土やカリウムの吸収を阻害します。
石灰(カルシウム)について - お役立ち農業辞書 - 株式会社京都農販
石灰は配合肥料や堆肥に含まれている成分でもあって、ついつい過剰になってしまう要素でもあります。
堆肥の王様と言われる廃菌床堆肥(商品名:マッシュORG)や、
長雨等で重宝する酸素供給剤(商品名:ネオカルオキソ等)にも石灰は含まれています。
知らない内に土壌の石灰量が高まっていくということを避ける為に、pHが低いからといって安直に石灰でpHの調整を行うことはやめましょう。
石灰でpH調整が出来ないのであれば、どうやって栽培開始前にpHを調整すれば良いのだ?と疑問に思うはずです。
そんな時には
pH調整を行うことが出来る苦土肥料のロングマグを勧めていますが、もう一度土壌分析の結果を確認してみると、
苦土が理想的な量よりも多くなっています。
苦土も石灰と同様で過剰症になると石灰やカリの吸収を阻害します。
今回の土壌ではpHの調整に石灰と苦土のどちらを提案してもNGになるみたいです。
それでは今回の畑では栽培開始前にpHの調整は行えないのか?と落胆しそうになりますが、土壌中に腐植が定着すると、土壌のpHが常に理想的な数値になる緩衝性を得ることが可能です。
腐植について下記の記事を読んで頂くとして、
腐植質の肥料を活用する前に腐植について整理しよう - 京都農販日誌
今回の畑では腐植を活用する時にも一つ問題が発生します。
この畑は砂質で、腐植質の肥料を施用しても土壌に上手く定着せずに流れてしまう可能性があることです。
現在の腐植の蓄積のモデルでは、土壌中の粘土鉱物に腐植が結合すると考えられています。
腐植が定着しなければ土壌のpHは理想値で安定しません。
この畑の土ではずっと肥料効率が低いことを許容して栽培をしなければならないのか?
そう落胆する必要はなく、
腐植質の肥料を施用する際に粘土鉱物質の肥料も合わせて施用すれば、自ずと土壌のpHは安定化(土作りの化学性の向上)します。
面白い事に粘土鉱物質の肥料には土壌のCEC(保肥力)を高めたり、カリや微量要素の補充という役割があり、粘土鉱物と結合した腐植には、土壌分析のECが理想的になるという作用もあります。
土壌分析の結果から施肥設計を検討するときは、不足しているところを足すという考え方ではなく、
尖った項目を生み出さないという発想の方が良い成果になるはずです。