京都農販日誌
腐植質の肥料を活用する前に腐植について整理しよう
2019/04/03
昨日、肥料関係の方と話をしていて、腐植を与えたら土壌中の微生物の餌になり得るのだろうか?という話題になった。
肥料を扱う者にとって腐植は難解なものであるが、秀品率の向上の為の超重要な要素であるため、この機会に腐植についてわかっていることをまとめてみることにする。
腐植を可能な限り正しく把握して使いこなすことで、確実に秀品率が上がりつつ、諸々の栽培コストは削減される。
はじめに腐植について記載されている箇所から抜粋してみることにしよう。
腐植の説明をWikipediaから抜粋してみると、
/***************************************************/
腐植とは、土壌微生物の活動により動植物遺体が分解・変質した物質の総称である。広義には単に土壌有機物としてのそれを指し、狭義には腐植化作用と呼ばれる分解・重合を繰り返し経て生成された、暗褐色でコロイド状の無定形高分子化合物群(腐植物質)を指す。
/***************************************************/
と記載されている。
物事を正確に捉える為には狭義の腐植の方を重点的に見ると良いので、広義の方の土壌有機物を狭義に分解してみると、
・非腐植物質(糖、タンパク質や脂肪等)
・腐植物質(フミン酸やフルボ酸でこちらが狭義の意味での腐植)
に分かれる。
非腐植物質は一昔前の用語で言うところの栄養腐植に当たり、腐植物質が貯蔵腐植に当たるはずだ。
最近、腐植系の肥料の成分表で長鎖炭素化合物という記述を見かける。
長鎖炭素化合物は分子量が10000以上、炭素数にして700以上のものを指すので、糖が直鎖に繋がったデンプンや植物繊維、アミノ酸が直鎖に繋がったタンパク質あたりが長鎖炭素化合物にあたり、これもまた非腐植物質に当たるはず。
糖の大半はカロリーの貯蔵物質で、タンパク質は主に体の材料になるので、非腐植物質は土壌の微生物の餌になると捉えて良いだろう。
これから本題の狭義の意味での腐植について見ていく。
フミン酸やフルボ酸の違いについてはここでは触れず、腐植物質と言えばフミン酸ということで話を進める。
図:藤嶽暢英 土・水環境に遍在するフミン物質の構造化学的特徴とその多様性 学術の動向 2016.2 51ページより抜粋
上記の図は土壌フミン酸の平均化学構造モデルなのであくまで推定ということで、フミン酸を含む腐植酸自体が未知なことが多いという前提の元、再びWikipediaからフミン酸の説明を抜粋してみると、
/***********************************************************/
フミン酸とは、植物などが微生物による分解を経て形成された最終生成物であるフミン質(腐植物質)のうち、酸性の無定形高分子有機物。狭義では、腐植土や土壌などにおいてアルカリに可溶で、酸で沈殿する赤褐色ないし黒褐色を呈する、糖や炭水化物、タンパク質、脂質などに分類されない有機物画分のことを指す。腐植酸とも言う。
/***********************************************************/
フミン酸を含む腐植酸は土壌の微生物によって非常に分解されにくく、地下水等を経て湖の底に堆積しやすい。
そのため湖の底から回収した泥炭系の肥料には高濃度の腐植が含まれているという謳い文句のものが多い。
上記のフミン酸の説明文の中に糖、タンパク質や脂質に分類されない有機物画分のことを指すことになっているので、腐植物質が土壌の微生物の餌になるのでは?という当初の話題は、腐植は土壌中の微生物の餌にはならないと返答することができる。
フミン酸の構造を眺めてみると、
化学でよく見かけるベンゼンという芳香族炭素化合物が大量に結合している構造になっている。
話を進める前にベンゼンを理解するための化学式の記述ルールを見ておくと、
By Jynto - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, Link
本来であればベンゼンは上記のようにC6H6の炭素化合物になるが、C(炭素)とH(水素)は省略して良いことになっているので、六角形の中に線が三本の形式で表現することができる。
ベンゼンの構造は安定で、安定が故に壊れにくい(≒分解しにくい)。
有機物の中でベンゼンを多く含む有機物を思い出してみると、
木の幹の主成分である
By real name: Karol Głąbpl.wiki: Karol007commons: Karol007e-mail: kamikaze007 (at) tlen.pl - own work from: Glazer, A. W., and Nikaido, H. (1995). Microbial Biotechnology: fundamentals of applied microbiology. San Francisco: W. H. Freeman, p. 340. ISBN 0-71672608-4このW3C-unspecified ベクター画像はInkscapeで作成されました., CC 表示-継承 3.0, Link
リグニンというベンゼンを含むフェニルプロパノイドが不規則?に結合したものか、
※六角形の中に丸の形もベンゼンを表す
※リグニンは茎葉にも蓄積する
ワインの赤い色で一躍有名になったポリフェノールがある。
※他に下記のタンニンも
リグニンの方に注目して、
リグニンは木材腐朽菌と呼ばれる糸状菌によって分解され、ベンゼンを含むフェニルプロパノイドという小さな断片へと変わっていく。
※シイタケ等のキノコが木材腐朽菌に含まれる
断片化したフェニルプロパノイドをコウジカビ(アスペルギルス属)の仲間が吸着・代謝してより大きな化合物へと変えていくという報告がある。
KAKEN — 研究課題をさがす | 土壌腐植の恒常性を支える微生物の代謝と生態 (KAKENHI-PROJECT-26310303)
コウジカビは断片をより大きな腐植酸に変えていく過程で、周辺の動植物遺体由来の有機物からエネルギーや材料を取りながら腐植酸に追加していくのだろう。
※コウジカビの仲間はフミン酸による抗酸化作用で増殖が活性化されたという報告もある
※農文協 作物はなぜ有機物・難溶解性成分を吸収できるのか 198ページの図を参考にして作成
フミン酸を含む腐植酸は土壌中にあるアルミニウムや鉄と結合しやすく、土壌中でアルミニウムを含む粘土鉱物等と結合して蓄積されていくと考えられている。
アルミニウムと結合した腐植はより安定になり、土壌の微生物による分解が更に遅くなりつつ、腐植が持つ保肥力が増加する可能性があるとされる。
腐植物質と粘土を見ることで、
栽培者にとって良い土とは何だろう?とうっすらと見えてくるから面白い。
今回紹介した話を肥料で実現する為に検討したものが、
キノコの廃培地を徹底的に使いやすくしたマッシュORGと
マッシュORGを土と馴染みやすくする為の良質な粘土鉱物である地力薬師の併用になる。
これらの肥料の実例の記事は下記になる。
次の記事