京都農販日誌

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リン酸無しの基肥の試験栽培を行っています

2023/02/10


土壌中のリン酸量と病原性のカビの振る舞いについての記事等で、土壌分析の結果でリン酸値が過剰の場合は病原性の糸状菌由来の病気が増え、株が弱体化する可能性があるという内容を記載しました。

であれば、リン酸(P)値が過剰の畑では、次作以降リン酸の施肥(大量に投入するであろう基肥)を控えれば、株の弱体化を防ぐことができるだろうという考えになりますが、安直に基肥でリン酸を控えて良いのか?という切り口で施肥について考えてみたいと思います。




はじめにリン酸の肥効について考えてみたいと思います。

速効性のリン酸肥料として思い浮かぶものにりん安があります。

肥料で用いられるりん安はリン酸水素二アンモニウムと呼ばれる物質で、水に溶かすとアンモニウムイオンとリン酸イオンに分かれ、どちらも植物の根によって吸収されます。

リン酸二アンモニウム - Wikipedia


栽培中にリン酸イオンがすべて吸収されれば何も問題はないのですが、残留したリン酸は土壌中のアルミニウム等と結合して、植物にとって吸収が困難な難溶性リン酸として残留するといった特徴があります。

もし、冒頭の土壌分析の結果のリン酸値がすべて難溶性のリン酸であれば、



定植直後でまだ発根が活発になっていない株で残留したリン酸は利用できないのでは?という問題が生じます。

この問題に対して、土壌分析で検知されるリン酸やそうでないリン酸、残留するリン酸といった視点で考えてみます。




土壌中のリン酸は下記の形があります。

  • りん安、リン酸カリや過リン酸石灰(過石)等の速効性のリン酸肥料 ◯
  • カルシウム型リン酸 △
  • 鉄型リン酸 ✕
  • アルミニウム型リン酸 ✕
  • フィチン酸 ✕
  • リン脂質 ◯
  • 核酸 ◯
  • その他腐植等に結合したリン酸 ?

※各リン酸の名称の横の記号は吸収のしやすさになります

フィチン酸 - Wikipedia

リン脂質 - Wikipedia

核酸 - Wikipedia

武田容枝 土壌リンの存在形態と生物循環 - 土と微生物 (Soi!Microorganisms) Vol. 64 No.l, pp. 25~32 (2010)


この内、土壌分析で用いるプレイ法で検知できるリン酸は速効性のリン酸、カルシウム型リン酸、鉄型リン酸とアルミニウム型リン酸になります。

フィチン酸以降の有機態リン酸と呼ばれるものは土壌分析のリン酸値として検知されないそうです。

※有機態リン酸は土壌の微生物の働きによって無機化されれば、土壌分析で検知されるようになります。


更に土壌に残留しやすいリン酸の観点で見ると、カルシウム型リン酸、鉄型リン酸、アルミニウム型リン酸とフィチン酸があり、カルシウム型リン酸以外は植物にとって難吸収性のリン酸となります。

アルミニウム型リン酸等の無機の難溶性のリン酸はリン酸の過剰施肥の残留分で、有機態リン酸で残留性の高いフィチン酸は米ぬか等の穀物由来の有機質肥料や家畜糞に多く含まれています。


植物にとって吸収しにくいリン酸は土壌中の微生物に協力してもらってはじめて吸収できるようになります。

土壌の微生物に協力(共生)してもらうには、植物の方で発根が順調に行われている必要があり、定植直後で発根が活発になって欲しい時期にはこれらのリン酸が吸収できないので、発根が活発にならず、残留したリン酸が使用されないという不安があります。




本件に関して、興味深い話があります。



マッシュORGの有効成分の一つに核酸があり、核酸が作物の初期生育(特に発根)に関して良い影響をもたらすという研究報告があります。

イノシンの施用は水耕栽培において作物の根の発育を促進する | 農研機構


核酸は糖とリン酸がつながった化合物で、有名なものに旨味成分のイノシン酸があります。

生体内では生物情報で有名なDNAやエネルギーを使いやすい形で貯蔵するためのATPとして利用されています。


イノシン酸からリン酸が外れたものがイノシンで、定植直後の生育で発根促進を誘導しつつリン酸の肥効が期待できます。

核酸はイノシン酸の他にもアデニル酸等がありますが、他の核酸の分解過程でイノシン酸が生成されます。

イノシン酸 - Wikipedia




定植直後に核酸でリン酸の供給を賄うことが出来れば、以後の収穫までの栽培は残留したリン酸とマッシュORG由来のフィチン酸の吸収で賄えるはずです。

この内容を検証するために、弊社試験ほ場でリン酸無しロング肥料の試験栽培を行っています。

試験栽培の内容は微生物資材に頼る前に意識してほしいことの記事に記載されている通り、マッシュORG + 粘土鉱物で物理性の改善を行った後に基肥でリン酸を無しにしています。



試験栽培直前で行った土壌分析の結果は上の通りで、グラフを突き抜ける程リン酸値が過剰になっていました。

他の場所でも似たような結果になっていました。


ネギを夏に定植して、



基肥でリン酸無し区画(写真左)で、リン酸有り区画(写真右)と大差ない状態で収穫することができました。


この試験栽培でリン酸値がどれ程下がるか?は後日行います。


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