京都農販日誌
窒素肥料について
2023/10/16
窒素肥料は他の肥料と異なり、肥効が複雑な肥料です。
よく窒素肥料は葉肥といい、生育に勢いをつけるといった意味合いで用いていることが多いですが、正しく理解していないと逆効果になり得ることもあります。
窒素肥料を大きく分けますと、
- ・硝酸態窒素
- ・アンモニア態窒素
- ・有機態窒素
に分けたりしますが、この時点ですでに窒素化合物としての形状が大きく異なり、肥効も大きく異なります。
肥効に関しては一旦置いといて、各分類の詳細を見ていきます。
はじめに硝酸態窒素やアンモニア態窒素を無機の窒素として扱います。
無機の窒素には、硝安(硝酸アンモニウム)、硝酸カリ、硝酸石灰、硫安(硫酸アンモニウム)や尿素等があり、どれも比較的即効性の窒素というイメージがあります。
一方、有機態の窒素には、アミノ酸、ペプチド(アミノ酸が複数繋がったもの)、タンパク質や核酸(イノシン)があります。
有機態窒素は一般的にタンパク質等の窒素を含んだ化合物が土壌の微生物によって分解されることで無機化した後に作物に吸収されるという説明が多く、遅効性の窒素として扱われることが多いです。
ここで把握しておきたいこととして、すべての有機窒素が遅効性というわけではなく、アミノ酸、ペプチドや核酸は作物がそのまま吸収することが出来るものもあり、それが窒素肥料の働き以上の効果を示す場合があります。
例えば、作物にペプチドの一種であるグルタチオンを与えると光合成のパフォーマンスが向上するとか、作物が核酸を吸収することで発根促進等があります。
イノシンの施用は水耕栽培において作物の根の発育を促進する | 農研機構
このように窒素肥料と言っても、どのような形状の窒素肥料を施肥するかによって、効くタイミングや生理的な影響が異なってきます。
※アミノ酸に関する読み物
二瓶直登等 イネ幼植物におけるアミノ酸(グルタミン,アラニン,バリン)の吸収・蓄 積部位の検討 - 根の研究(Root Research)21(4):119-121(2012)
ここで一つ無機の窒素に関して絶対に把握しておかなければならないことを紹介します。
無機の窒素は作物の生育にとって重要な植物ホルモンの作用と密接な関係があり、施肥の仕方によって植物ホルモンの働きが変わります。
無機の窒素と植物ホルモンのサイトカイニンに関して、
栄養塩類、特に窒素肥料が不足すると地上部の成長は阻害されるが、根の成長はあまり阻害されないか、むしろ促進される。これは、栄養塩類が不足していれば光合成器官よりも栄養塩類を吸収する根の成長のために資源を分配し、栄養塩類が十分であれば光合成器官や生殖器官に分配するという戦略をとっていることと考えられる。
※新しい植物ホルモンの科学 第3版 - 講談社 26ページより引用
という内容があります。
ここでいう栄養塩類の窒素肥料というのは硝酸態窒素を指しまして、硝酸態窒素は良く効くが発根の抑制をしてしまうということがわかります。
ここで一つ心配事が生じます。
栽培が上手な方は初期生育時に地上部の勢いを抑え、発根促進の方に注力を注ぎ、栽培中期から地上部の生育に注力を注ぐという方針をとるかと思います。
そうしないと栽培中期以降で肥料を与えたいとしても発根量が十分でなく、追肥をしても期待した効果は望めず、葉面散布等のコストのかかる追肥に頼らなければなりません。
心配事というのは家畜糞による土作りです。
家畜糞は熟成すればする程、窒素成分の無機化が進み、硝酸態窒素の量が増えてしまいます。
土作りに用いるということは有機質肥料としての使用の10倍以上を一気に投入することであって、作物の播種や定植時に発根を抑制する要素が大量に含まれていることになります。
初期生育で発根が抑制されれば、その後の栽培で発根が促進される見込みは一切なく、収穫まで発根量が少ないまま栽培を続けなければなりません。
発根量が少なければ、根から水を吸い上げる量も減ってしまう為、猛暑日等に対しても弱体化します。
※保水性に関しては猛暑日対策で田畑の土の保水性を高めるをご覧ください。
常に水を必要とするナスやサトイモ等の栽培では初期生育で発根が抑制されることは致命傷です。
硝酸態窒素を多く含むと言われているものは基肥で用いず、追肥で用いることにして環境に強い作物の栽培を行うようにしましょう。
初期生育の窒素肥料は米ぬか等を微生物に分解されたボカシ肥に頼ることにしましょう。
米ぬかボカシ肥は製造が大変ですが、キノコ栽培の廃培地である廃菌床堆肥等が米ぬかボカシ肥に相当します。
廃菌床堆肥には発根を促進する核酸も含まれているのでおすすめです。
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