京都農販日誌

京都農販日誌

土壌消毒後に鉄欠乏の症状が表れた

2024/06/19


カーバムナトリウム塩を主の有効成分とする土壌消毒剤で、散布後に作物が鉄欠乏になったという話題がありました。

カーバムナトリウム塩が鉄欠乏に直接影響したか?を判断するために、カーバムナトリウム塩の作用機構から見ていくことにします。


はじめに話題になりました土壌の環境を整理します。

  • ・黒ボク土でpHが5.5前後
  • ・土壌中に鉄は十分量ある
  • ・硫酸塩(硫安、硫加、硫マグや石膏等)の肥料を多用する傾向にある
  • ・銅過剰(塩基性硫酸銅の殺菌剤の残留の可能性が高い)



はじめにカーバムナトリウム塩について触れます。


※図:ダゾメット、メタムアンモニウム塩(カーバム) - 環境省より引用


カーバムナトリウム塩は硫黄(S)を含む化合物で、水に触れると速やかに


※図:ダゾメット、メタムアンモニウム塩(カーバム) - 環境省より引用


メチルイソチオシアネート(以後はMITCと略す)に分解され、土壌消毒としての効果を発揮します。

作用機構はMITCが土壌中に速やかに拡散され、土壌中の微生物等のSH基を阻害する増殖を抑えると考えられていますが、殺線虫機構に関しては明らかにされていません。

メチルイソチオシアネート - 環境省


カーバムナトリウム塩は環境に優しい土壌消毒剤として扱われていますが、反応性の高い硫黄(S)を含む化合物であるため、MITCが土壌に与える影響は無視できません。

中干しの期間の延長を考える前に


今回はMITCを土壌に散布した後の反応を見てみることにします。




水域環境ではありますがメチルイソチオシアネートの水域環境における分解挙動 - 水環境学会誌 2009 年 32 巻 4 号 p. 213-218にMITCの水、酸素及び光による分解についての推定の経路が記載されていましたので、その内容を参考に話を進めます。

※上記の報告では、水域環境での調査になりますが、土壌でのMITCの挙動も想定されています。


MITCは土壌に散布しますので、分解時に影響を受けるものとして、土壌水分と酸素があります。


MITCと水の反応を整理してみますと

MITC + H2O → COS + CH3NH2

硫化カルボニル(COS)とメチルアミン(CH3NH2)が生成されます。


硫化カルボニルは毒性があり、メチルアミンも有機化合物に対して何らかの影響を与える(求核剤)ものとされています。

殺線虫作用は硫化カルボニルに因る可能性があります。

硫化カルボニル - Wikipedia

メチルアミン - Wikipedia


硫化カルボニルは水に触れると更に分解が進み、

COS + H2O → H2S + CO2

硫化水素(H2S)と二酸化炭素(CO2)が生成されます。

硫化水素 - Wikipedia


硫化水素といえば、中干しの期間の延長を考える前にで土壌中の鉄と反応して、植物が利用出来ない硫化鉄になるという内容を記載しています。

ここで一つカーバムナトリウム塩による鉄の吸収を阻害する要因がありました。




続いて、MITCと硫化水素の反応を見ていきます。

MITC + H2S → CS2 + CH3NH2

という反応があります。


CS2二硫化炭素で、CH3NH2は先程も登場しましたメチルアミンになります。

二硫化炭素は殺虫剤の主成分として用いられています。

二硫化炭素 - Wikipedia


二硫化炭素は求電子性(電子を欲しがる性質)であるため、植物が吸収する際に還元(電子を受け取る)を要する成分(鉄等)に対して何らかの影響を与える可能性が考えられます。

植物における鉄吸収 - 新しい植物栄養学入門 - タキイ種苗株式会社の鉄獲得機構系Ⅰ

酸化還元電位から家畜糞による土作りを考える




カーバムナトリウム塩を主成分とする土壌消毒剤を散布しても必ず鉄欠乏の症状になるといったことはありません。

であれば、土壌中の他の要因が関係している可能性があります。


ここで冒頭に挙げた内容のうち、

  • ・硫酸塩(硫安、硫加、硫マグや石膏等)の肥料を多用する傾向にある
  • ・銅過剰(塩基性硫酸銅の殺菌剤の残留の可能性が高い)

を考えてみます。


硫酸塩の肥料というのは、化学式がK2SO4(硫加)やMgSO4(硫マグ)といったSO42-を含んだ肥料を指します。

植物は硫黄をSO42-として吸収するのですが、大量に吸収出来ないため土壌に残留しやすい肥料になります。


土壌に残留すると、硫酸還元菌により硫化水素が発生する可能性があります。

硫化水素は植物が鉄を吸収することを阻害しますし、硫化水素がメチルイソチオシアネートと反応して鉄の吸収を阻害する可能性も考えられます。


メチルイソチオシアネートの土壌消毒で土壌の微生物叢が変化し、硫酸塩肥料の残留を頼りに硫酸還元菌が優勢になり、硫化水素が発生しやすくなっているといったことがあれば、土壌消毒によって鉄欠乏が発生しやすくなったと言えそうです。




残りの要素の銅過剰ですが、銅は活性酸素の発生に関与しています。

活性酸素は周辺の物質を酸化(電子を奪う)させます。


先程も挙げましたが肥料としての鉄は還元(電子を受け取る)されることで肥効を発揮します。

銅が過剰になっていることも鉄が効きにくくなる要因かもしれません。




今回の記事で記載した内容が正しいとした場合、土壌消毒を行う場合は前作の施肥が大きな影響を与えることになります。


土壌消毒を前提とした栽培を行う場合、土壌消毒前後の施肥設計から見直し、残留性の低い肥料を使用することを心がけた方が良いかもしれません。

一覧に戻る

お問い合わせ

弊社へのご相談・ご質問は
こちらからお問い合わせください。

お問い合わせはこちら