京都農販日誌

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葉面散布で殺虫剤の使用回数を減らして秀品率の向上を目指す

2020/03/04

前々回の殺菌剤の使用を見直すことが秀品率の向上に繋がるの記事と、前回の菌根菌に関して肥料でどこまで出来るか?の記事で、殺菌剤を使用すると作物が弱る可能性があり、虫や病気の被害を軽減するためには殺菌剤の使い方を意識的に変える必要があるということを記載し、殺菌剤の使用量の削減として菌根菌についてわかっていることを整理しました。


今回の記事では菌根菌とは別の視点で作物が強くなる為にヒントになりそうなことを整理して紹介します。


早速、興味深い研究報告を一報紹介します。

うま味が痛みを伝えている!?-植物が傷つけられたことを感じ、全身へ伝える仕組みを解明-(大学院理工学研究科 豊田 正嗣准教授) - 埼玉大学


要約すると、葉が幼虫に食害されたり、ハサミで一部を切ると傷ついたところから全身に向けてグルタミン酸(アミノ酸の一種)を用いて傷ついた情報を伝達していました。グルタミン酸を受容した細胞では次の傷害に備えはじめました。


研究ではシロイヌナズナを用いていましたが、情報の伝達という植物が生きる上での基礎的な反応ですので、植物全般に上記の内容が言えるという仮定で話を進めます。


この報告で気になった箇所があり、

更なる検証として、細胞の外からグルタミン酸を投与したところ、葉が損傷した時と同じ反応を示したという報告が記載されていました。

投与に関して詳しい記述はありませんでしたが、実験方法から考えると、おそらく葉にグルタミン酸を散布もしくは注入が考えられますが、注入は葉にダメージを与える行為になりますので、この可能性は外すとなると、葉にグルタミン酸を散布という可能性が強くなります。


この研究報告に目を通した時、アミノ酸の葉面散布は効果がありますか?で紹介した内容が頭に浮かびました。

アミノサンプロ - 京都農販


アミノサンプロというアミノ酸肥料を定期的に葉面散布されている方々から、葉の照り艶が増して、食味が向上しつつ、虫の被害が減って農薬の散布量が減ったという話題が頻繁に挙がります。

虫の被害が減ったということは、食害時の傷穴から病原菌が侵入する機会が減る事になるので、作物が病気の感染も減り、殺菌剤の使用量の削減にも繋がる事になります。


アミノ酸肥料の葉面散布は作物が防御の為に合成する各種タンパクの材料として働くので、防御力が増すという意味合いで病気が減ると予想していましたが、今回の研究報告を加味すると、被害を受けていない株が病害虫に対して身構える為のキッカケになる可能性も有り得るわけで、アミノ酸肥料の葉面散布が予防薬的な面でも有効であるかもしれません。


アミノ酸肥料の葉面散布以外で、


農文協から作物の栄養生理最前線 ミネラルの働きと作物、人間の健康という本に記載されていた内容になりますが、


葉面散布は作物に追肥的な意味合いの他に障害発生の予防として有効とされていて、障害発生の予防のためには1週間に一回程度の継続散布が必要とされているそうです。興味深い効果として、水溶性ケイ酸による病気に対する抵抗性の誘導やアミノ酸による根圏微生物相の改善効果もあるとされていると記載されていました。

地力薬師 - 京都農販


粘土鉱物肥料を葉面散布用に粒状にしたものを使用している方々から、葉が固くなって、病気の感染が減ったように感じると話題に挙がることが度々あります。


ここで一つよく挙がる質問があるので紹介すると、

虫や病気に強くなった作物は美味しくないのでは?という話題が挙がります。


先に体感した内容で返答すると、

虫の被害を受けにくく、病気になりにくい作物は食感が良く、味も良好です。


葉が硬くなって、虫の被害を受けにくくなったものは良好な食感に繋がっているはずです。

葉が合成する虫を寄せ付けにくくする成分は、



ネギの仲間であれば、動脈硬化の予防等の硫化アリルであったり、コマツナ等のアブラナ科の作物であれば、抗がん作用があるとされるイソチオシアネートであったりして、機能性野菜としての価値が高まっている可能性が十分に考えられ、前回の菌根菌からの観点も加味すると、葉にミネラルも蓄えているので、栄養価も高まっている可能性も考えられます。


ミネラルを豊富に含む作物は光合成の質も高い為、糖由来の甘み、アミノ酸由来の旨味も良いはずで、グルタチオンによる味の増強やポリフェノール類のほんのりとした苦味が作物の味の質を高めている可能性もあります。

※グルタチオンは光合成が盛んな葉でよく蓄積されている物質です。


最後に葉面散布は今回紹介したアミノサンプロや粉の地力薬師以外でもノウハウが蓄積されています。



弊社のノウハウは土壌散布と葉面散布の実践手引き(有料)に予防薬と合わせて記載があります。

土壌散布と葉面散布の実践手引きは京都農販が関与しているイベントや勉強会で入手することができます。

京都農販の取り組み


補足

グルタチオンについて

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近年レバーやホタテ貝、魚醤、ニンニク、タマネギ、酵母エキスといった食べ物に含まれるグルタチオンのような小さなトリペプチドが、舌上のカルシウム感受性チャネルを刺激することによってこく味が引き起こされると報告されています。グルタチオン自体に味はありませんが、苦味を抑え、塩味、甘味、うま味を増強します。なお、酸味への影響は明らかにされていません。しかし、わずか2〜200ppmといった微量でもこく味を感じさせる効力があります。

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食感をめぐるサイエンス - 株式会社 化学同人 14ページより引用


補足2

グルタチオンには抗酸化作用があります。

作物の収穫量・品質向上に関与するグルタチオンの機能解明 - 農林水産技術会議

2-アミノ酪酸による新たなグルタチオン代謝制御機構を発見 -錆びない体づくりの秘訣として期待- | Research at Kobe

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