
お役立ち農業辞書
肥料成分の窒素(N)
肥料の三大要素の一つである窒素(N)について見ていきます。
肥料としての窒素(N)は葉肥(はごえ)として、茎や葉の成長に必要な要素として扱われています。
実際には窒素(N)は体作りや体内の各種生理反応に必要なタンパク質の材料になりまして、成長していく上で最重要だとされています。
肥料としての窒素には無機態窒素と有機態窒素があり、それぞれに効かせ方や機能が異なる為、一括りに窒素肥料として扱う事が難しい要素でもあります。
始めに窒素肥料を丁寧に分類する事から始めます。
窒素肥料は一般的に
- ・アンモニア態窒素
- ・硝酸態窒素
- ・有機態窒素
に分類されて扱われている事が多いです。
窒素肥料の前提としまして、化学式に窒素(N)を含む化合物であれば、窒素肥料に成り得ます。
無機態窒素と有機態窒素の違いは化学式にNを含みつつ、炭素(C)を含まないものを無機態窒素とし、それ以外を有機態窒素としています。
無機態窒素の例として、硫安(硫酸アンモニウム:(NH4)2SO4))や硝石(硝酸カリウム:KNO3)等があります。
有機態窒素の例として、アミノ酸(R-CH(NH2)COOH)や核酸(イノシン等:C10H12N4O5)等があります。
※アミノ酸が複数個つながったものをペプチドと呼び、更につながったものをタンパクと呼びます。
窒素肥料の効き方は水に溶ける事で発揮し、効きの強さは水への溶けやすさで決まります。
無機態肥料は水に溶けやすいものが多く、施肥後速やかに効きますが、有機態窒素は土壌の微生物等の分解を経て無機化して水に溶けるようになることで効くようになります。
無機化というのは、タンパク → ペプチド → アミノ酸 → アンモニア(NH3) → 硝酸(HNO3)と形が小さくなることを指します。
タンパクはある程度の小ささになれば水に溶けるようになりますので、植物の根はペプチドあたりから吸収することができるようになるそうです。
稲作ではアンモニアの段階で利用される事が多く、
畑作では硝酸で利用される事が多いとされています。
各窒素肥料について見ていきます。
アンモニア態窒素には下記があります。
- 硫安(硫酸アンモニウム):(NH4)2SO4
- リン安(リン酸水素二アンモニウム):(NH4)2HPO4等
- 硝安(硝酸アンモニウム):NH4NO3
- 尿素:CH4N2O
- ウレアホルム:尿素とホルムアルデヒドCH2Oが複数個つながったもの
- 石灰窒素(カルシウムシアナミド):CaCN2
※尿素と石灰窒素は炭素(C)を含む化合物であるため有機態窒素のような形になりますが、肥効の速さから無機態窒素として扱われる事が多いです
硝酸態窒素には下記があります。
- 硝安(硝酸アンモニウム):NH4NO3
- 硝石(硝酸カリウム):KNO3
- 硝酸石灰(硝酸カルシウム):Ca(NO3)2
硝酸態窒素は熟成した家畜糞等に多く含まれています。
無機態窒素の使用上の注意点としまして、土壌中に大量にあると根焼けの原因となるガスの発生要因となります。
ガスの例としまして、アンモニアガスや亜硝酸ガスがあり、基肥を無機態窒素を主体とした時に、施肥後直ぐに播種や定植をしてはいけないと言われる所以になります。
他に植物の根は硝酸態窒素が十分にあると根の伸長を抑え、葉を茂らす方に注力を注ぐ傾向があるそうです。
初期生育時に硝酸態窒素を多く含む肥料を基肥で使用するのは極力少なくしましょう。
有機態窒素ですが真っ先に思い付くのがタンパクが豊富な有機物肥料になりまして、
魚粉や菜種油粕等があります。
これらの有機質肥料に含まれる有機態窒素は主にタンパクになります。
土壌に施肥したタンパクは土壌の微生物等の働きにより、ペプチドやアミノ酸に分解され、更にアンモニアや硝酸になり植物に吸収されます。
途中のペプチドやアミノ酸も水に溶けるので、無機化される前に植物に吸収される事があり、窒素肥料としての効きの他に発根促進や耐乾性の向上等の報告もあります。
有機態窒素で注意すべき点としまして、タンパクの他に核酸がありまして、核酸は窒素肥料の効き以外でも植物に影響を与える事があります。
核酸という名称は普段聞き慣れませんが、核酸には旨味成分であるイノシン酸(C10H13N4O8P)やグアニル酸(C10H14N5O8P)等があります。
これらの核酸は窒素肥料としての働きの他に発根促進等の効果が報告されています。
※イノシン酸からリン(P)が外れるとイノシンになります。
イノシンの施用は水耕栽培において作物の根の発育を促進する | 農研機構
厳密には核酸ではありませんが、核酸の代謝産物(プリン体)として
未熟な鶏糞の白い箇所に多く含まれます尿酸(C5H4N4O3)や
コーヒー抽出残渣に含まれますカフェイン(C8H10N4O2)があります。
カフェインは土壌中の微生物に何らかの影響を与え、カフェイン施肥の一年目は抑制的に働き、二年目以降は窒素肥料として効くようになったという報告があります。
コーヒー抽出残渣の作物生育阻害効果の克服:耐性種の探索と残渣処理
有機態窒素のペプチドにも光合成や発根の促進の効果が見られるといった報告もあり、肥料としての単純な肥効だけではないことがわかります。
有機態窒素の使用上の注意点としまして、施肥後に土壌の微生物が活発化し過ぎるという問題があります。
一見問題無いように思われますが、作物と土壌の微生物間で養分の取り合いが始まり、肥料を与えたはずなのに作物の元気がなくなるといった事があります。
この現象を窒素飢餓と呼びます。
窒素飢餓ですが、C/N比の高い有機物の肥料の施肥後で発生しやすいと考えられています。
C/N比は肥料に含まれる炭素(C)と窒素(N)の重量比になります。
炭素(C)は炭素化合物を指し、デンプン(糖)、脂質や木質成分を指します。
一方、窒素(N)は無機態窒素と有機態窒素を合わせた総量になり、C/N比が低い肥料程、窒素成分を多く含むことになります。
各肥料のC/N比は下記のようになります。
- 鶏糞:5~10
- 魚粉:5~8
- 油かす:7~10
- おから:10〜12
- 牛糞堆肥:10~20
- 米ぬか:20〜23
- 稲わら:50~80
- おがくず:100~200