京都農販日誌

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稲作で酸化還元電位を意識してジャンボタニシの被害を軽減する

2023/07/05


稲作の省力化と品質の向上を目指して等の記事で紹介しています物理性の向上 + レンゲ + 中干し無しの稲作をしている田で興味深い事がありました。



毎年頭を悩ませていたジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)ですが、今年はほとんど見かけず、ピンク色の卵の塊もほとんど見かけません。

今年は気候条件的にジャンボタニシが少ないのか?と思い、隣の田の底を見てみたところ、



例年通りのジャンボタニシの多さでした。


栽培している方に今年はジャンボタニシの捕獲を頑張りましたか?と確認してみましたが、例年通りとのことでした。

ジャンボタニシが減ったことに対して、タニシを捕食する天敵(鳥等)が集まったとか色々な事が考えられますが、



土作りをしているレンゲ米栽培の田の田植え前の土の様子の記事で触れました今年始めての現象(土表面の褐色化)が影響しているのではないか?とアタリを付けて考えてみましたところ、酸化還元電位を謳い文句にしている肥料の事を思い出しましたので、その肥料についてを紹介します。




肥料について触れる前に、ジャンボタニシ向けの農薬について触れておきます。


ジャンボタニシ向けの農薬としてよく聞くものとして、リン酸第二鉄(FePO4)というものがあります。

リン酸第二鉄の作用機構はジャンボタニシ等が還元された鉄を摂取すると摂食障害を起こすというものです。


この農薬の素晴らしいところが、リン酸も還元された鉄も作物にとって肥料となる点です。

リン酸第二鉄のジャンボタニシに対しての毒性は弱いですが、被害を抑制するという点ではよくできた農薬になります。


この話題に対して、



セルエナジーという肥料がありまして、稲作で使用するとジャンボタニシの抑制効果の報告があります。

仕組みはセルエナジーを施用することで土壌の酸化還元電位を下げます。

電位を下げるということはつまりは土壌粒子を還元することになりまして、土壌中の鉄を還元して、ジャンボタニシに対して毒性がある状態にします。

水稲栽培に「ビール酵母細胞壁」由来の農業資材(肥料原料)※1を活用、“稲作の天敵”ジャンボタニシ※2による稲の食害が低減 - アサヒバイオサイクル株式会社


この話題は年々増える猛暑日対策として、中干し無しの稲作に注目していますの記事で触れました酸化した鉄 + 有機物の組み合わせで窒素固定を行い稲作に必要な肥料分を賄うという内容と同様の現象になります。


冒頭の水田では中干し無しの稲作により有機物が蓄積していて、鉄の還元の条件を十分満たしています。

田植え後の潅水状態で鉄が速やかに還元されてジャンボタニシに影響を与えたのか?と予想しています。




今回の話には一つだけ問題がありまして、その問題について見ていきます。

稲作と酸化還元電位の記事で話題に挙げました土壌中の還元されやすい順ですが、

  • 硝酸 → 亜硝酸、一酸化二窒素、窒素ガスやアンモニア
  • マンガン(Ⅳ) → マンガン(Ⅱ)
  • 鉄(Ⅲ) → 鉄(Ⅱ)
  • 硫酸 → 硫化水素
  • 二酸化炭素 → メタン

※参考:エッセンシャル土壌微生物学 作物生産のための基礎 - 講談社 98ページ

※上記の順番で硝酸の上に酸素があります。酸素がすべて消費されてから上の反応が開始します。

になっています。


セルエナジーや蓄積した有機物からジャンボタニシに対して毒性のある鉄(Ⅱ)(還元された鉄)ができるには、硝酸やマンガン(Ⅳ)がある程度還元され消費されている必要があります。

ジャンボタニシの被害が大きいのはイネの定植直後です。

この時期に適切にリン酸第二鉄も含め、鉄(Ⅱ)が意図通りに効いてくれるかは疑問です。

※稲作の元肥で完熟家畜糞を施肥しなければ、栽培初期で鉄の還元が始まる確度が上がります。

※タンニン鉄等のキレートされた鉄(落葉広葉樹の落ち葉から出る黒い液体と結合した鉄)であれば、昨年度の還元鉄の有効活用ができるかもしれません。




今回の内容からジャンボタニシ対策としてセルエナジーを使用したいと思うかもしれませんが、使用の際に注意しておくべき内容があります。

セルエナジーにより栽培初期に鉄(Ⅲ)の消費が始まり、比較的早い段階で根腐れの原因である硫化水素が発生する可能性があります。



例年よりも意識的に中干しを行う事で硫化水素ガスの発生を抑える事はできますが、稲作のアドバンテージである有機物の積極的な蓄積を行う事ができなくなり、地力増進の機会を失います。

社会情勢の視点から減肥の流れは年々強くなっていく事は予想できますので、地力増進の機会を失うのは大痛手です。


セルエナジーの使用による硫化水素の発生を抑制したければ、鉄剤(酸化された鉄)が豊富に含まれている資材も合わせて使用することをおすすめします。



使い捨てカイロのような酸化された鉄の肥料の利用ができれば良いのですが、集めるのが難しいです。


他の手段としては土壌に腐植を蓄積して、腐植も還元の対象にして、硫酸以下の反応を抑える方法があります。

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