京都農販日誌

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リン酸枯渇問題と代替肥料について

2023/07/24

社内で定期的に勉強会を行っていて、リン酸枯渇問題をテーマにして話をしました。

リン酸枯渇問題については、農学部の学生の頃の肥料学の講義でリン酸の施肥後に余剰分が河川や地下水等で海に流れたら回収が困難な資源で、肥料の原料のうち、リン酸が最も枯渇しやすいということを習いました。


リン酸は肥料の三大要素の一つなので、リン酸の枯渇こそが食糧危機の最大の要因に成り得る可能性があり、資源の紛争の発展に繋がる恐れもあります。

昨今、テレビのニュースでリン酸肥料の話題を見かける事が増えましたので、リン酸について整理していくことにします。

迫り来るリン資源の危機 - 日経サイエンス


当記事を読み進める前にリン酸の施肥を意識することを勧めていますを一読することをおすすめします。





農業で使用するリン酸肥料は燐灰石というリン鉱石を原料として製造されています。

燐灰石は何処から採掘されるか?を調べてみますと、スカルンなどの変成岩中で産出されるそうです。

ネイチャーガイド・シリーズ 手のひらに広がる岩石・鉱物の世界 岩石と鉱物 148ページより


スカルンという用語は普段耳にせず聞き慣れないので、もう少し細かく見ていきますと、スカルンは下記のように説明されます。

スカルンとは石灰岩などの炭酸塩岩中にマグマが貫入してきた際、その接触部付近にできる鉱物の集合体

スカルン - Wikipedia


上記の説明だとまだわかりにくいので、更に細かく見ていきます。



石灰岩などの炭酸塩岩というのは、サンゴや貝等の炭酸石灰を殻にもつ生物の死骸が堆積して出来た岩を指します。

石灰岩が堆積された層がプレートの動きや更なる堆積によって地中に配置されます。



マグマが貫通というのは、火山等で地下にあるマグマ溜りからマグマが上昇していく時の事を指し、上の図の矢印辺りに石灰岩の層がある場合にマグマが貫通した周辺にスカルンが出来ます。

スカルン鉱床は地下深くで冷え固まった花崗岩(深成岩)付近にあることが多いので、地殻変動で採掘しやすい場所に鉱床が出現する必要があります。

※花崗岩に関しての読み物は下記のページがおすすめです。

白亜紀のマグマ上昇 | 大鹿村中央構造線博物館


上記の内容は長い時間を要しますので、海に流れたリン酸の回収が難しいということがわかります。

リン酸の採掘は上記の他にグアノ鉱床等がありますが、他の鉱床は割愛します。

グアノ - Wikipedia




続いて、リン酸肥料の製造について見ていきます。

肥料に限らず、工業的に燐灰石から何らかのものを加工する時に、乾式(燃焼、電気炉リン酸)と湿式(酸による処理)がありますが、前者は処理が高額になるため、後者の湿式を用います。

松永剛一等 リンの工業利用 生物工学 第90巻 2012年 第8号

※JA全農 肥料農薬部 施肥診断技術者ハンドブック 2003 105ページ


リン酸肥料でおそらくいちばんわかりやすいものはリン酸カルシウム(過リン酸石灰)になりますので、過リン酸石灰を例にして話を進めます。


燐灰石の組成式はCa5(PO4)3(F,Cl,OH)1になりまして、ここに硫酸H2SO4を反応させます。

細かい式は端折りますが、Ca(H2PO4)2の第一リン酸カルシウム(過リン酸石灰)とCaSO4の硫酸石灰が出来ます。


注意すべき点は過リン酸石灰の製造時の原料の燐灰石に不純物(他の鉱物)が混じっていたり、硫酸石灰が混ざるという点です。

不純物からアルミニウムや鉄が溶脱し、難溶性のアルミニウム型リン酸や鉄型リン酸や有益なリン酸カリウムが含まれている可能性があります。

リン酸無しの基肥の試験栽培を行っています


硫酸石灰は残留性(稲作時の硫化水素の発生源)の肥料として時々話題に挙がり、リン酸肥料を使用する上での注意点となります。

稲作の酸化還元電位




リン鉱石に代わるリン酸肥料の製造で資源の再利用が注目されています。

よく見かけるものとして、



下水処理場の汚泥から得られる下水汚泥肥料

下水汚泥肥料に係る新しい公定規格「菌体りん酸肥料」の制定について - 日本下水道事業団



消化器から取り出したリン酸肥料があります。

水溶性を付与した廃棄消火薬剤の新たな用途開発 - 福岡県リサイクル総合研究事業化センター




前者の下水汚泥肥料は若山聖等 下水消化汚泥中のリン組成分布と酸処理による変化 - 土木学会論文集G(環境),Vol.72,No.8,III_243-III_248,2016.に製造方法の記載がありましたので紹介しますと、圧縮と微生物の働きにより汚泥中の有機物が消耗された消化汚泥と呼ばれるものに対して、何らかの酸を添加することでリン酸等の成分を回収した肥料になります。

記載されている添加する酸には硫酸、クエン酸と酢酸があり、各々の酸の添加に一長一短があります。


上記の方法では汚泥肥料にカドミウム等の有害金属が含まれる可能性があるため、含有量の規制が設けられています。

汚泥肥料に関する基礎知識(一般向け) :農林水産省


汚泥肥料製造の際にどの酸を添加するかについての記載はありませんが、リン酸以外に窒素や硫酸塩といった成分が含まれている可能性がありますので、過リン酸石灰の時の注意点と同様の要素に注意する必要があります。




後者の消化器から取り出したリン酸肥料ですが、消化器の粉末から撥水性のコーティングを除去してリン酸を回収したものになります。

ただし、消化器の粉末にはリン酸アンモニウム(リン安)の他に硫酸アンモニウム(硫安)も含まれている為、ガスの発生要因も含まれている事になります。




今回紹介したどのリン酸肥料にも副成分としてガスの発生要因が含まれている可能性があることがわかりました。

リン酸の施肥を意識することを勧めていますの記事で触れましたリン酸過剰の問題として作物の病気の感染のリスクが高まるということもありまして、リン酸肥料の肥料は他の肥料よりも注意しながら、限られた資源を丁寧に使用するという意識が大事になることは間違いないです。


リン酸を意識することで、リン資源以外にも農薬の散布量の削減等で燃料資源の使用量の削減にも繋がります。

栽培は秀品率を高める取り組みが環境問題に直結する稀有な産業ですので、利益率の向上に対してリン酸肥料の施肥量の見直しから始める事をおすすめします。

リン酸無しの基肥の試験栽培を行っています

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