京都農販日誌
黒ボク土での栽培について
2023/09/27
黒ボク土での栽培の注意点に関する話題が挙がりました。
学者の方で黒ボク土は栽培し難いという方がいらっしゃいますが、黒ボク土よりも遥かに栽培し難い土がたくさんある為、個人的には一長一短が大きな諸刃の刃的な土質だと考えています。
そんな意見を二分させる土質ですが、メリットとデメリットを見ていくことにします。
黒ボク土にはいくつか種類がありますが、今回は農学の研究拠点がある場所の土質であるアロフェン質黒ボク土をベースにして話を進めます。
はじめに黒ボク土のメリットについて挙げますと、なんといっても活性アルミニウムの働きにより、有機物蓄積能が高く、土のち密度が低く(柔らかい)、物理性と化学性が高いことが挙げられます。
栽培の難易度が非常に高い地域で栽培をしていた方であれば、上記の条件があるだけで十分だと思うような魅力があります。
黒ボク土のデメリットは活性アルミニウムにより、リン酸吸着力が高く、リン酸が効きにくいということが挙げられます。
NPKを最も意識して栽培をしている方にとって、リン酸吸着力が高い事は致命傷のように感じられるはずで、これが黒ボク土が諸刃の刃的な土質と考える所以です。
※後術しますが、黒ボク土の他のデメリットとして、活性アルミニウムによる発根の阻害があります。
ただ、この話は冷静に考えてみると、活性アルミニウムは有機物蓄積能が高く、リン酸吸収力も高いのであれば、圧倒的な有機物の投入により、土にリン酸が固定されて無効化することを予防すれば良いのでは?と思い付くかもしれません。
この疑問を解消するためには、有機物蓄積とリン酸吸着がどのようなものかを把握する必要があります。
はじめに黒ボク土の活性アルミニウムは何なのか?について触れていきます。
アロフェンというのは、アルミニウムケイ酸塩でできた粘土鉱物を指します。
アルミニウムの化学的な特徴は強い結合力になりまして、粘土細工等で粘土を捏ねた時に大きな塊になるのはアルミニウムの結合力に因るものです。
黒ボク土を改めて言葉にしますと、有機物蓄積能が高い粘土鉱物を主の土壌鉱物とした土質だと言えます。
例を挙げますと、今回話題に挙げていますアロフェンや2:1型粘土鉱物のモンモリロナイト等になります。
※農文協 作物はなぜ有機物・難溶解性成分を吸収できるのか 198ページの図を参考にして作成
この粘土鉱物に含まれるアルミニウムは興味深いことに、粘土同士の結合だけでなく、有機物やリン酸とも強く結合します。
上記内容に関してはリン酸過剰問題に対して腐植酸の施用は有効か?の記事に記載があります。
アルミニウムの結合力から、有機物とリン酸のどちらも結合するということがわかり、黒ボク土において圧倒的な有機物の投入により、リン酸の固定を無効化することが出来る可能性が高いということがわかります。
黒ボク土のもう一つのデメリットとして土の酸性化という話題がありますが、土壌に有機物が蓄積した時の有機物がもつ緩衝性により酸性化も気にしなくて良いことになります。
アロフェンや2:1型粘土鉱物等のアルミニウムケイ酸塩の鉱物は効きが強い肥料(生理的酸性肥料)や空気に触れる事で風化して、活性アルミニウムが溶脱します。
活性アルミニウムはリン酸と結合することで、植物にとって難吸収性のアルミニウム型リン酸になります。
活性アルミニウムの障害がリン酸の吸収の阻害であれば、何らかの形でリン酸を散布すれば解決するように思いますが、栽培上致命的な障害は他にもあります。
植物の根が溶脱したアルミニウムに触れると、根の伸長が阻害されるという報告があります。
酸性土壌とアルミニウムストレス Root Research 12(4) :149-162(2003)
栽培中に根に障害を受けると、土壌から肥料全般の吸収が期待できなくなり、吸水力も落ちるので暑さにも弱くなります。
アルミニウムの溶脱を避けるには、効きの強い肥料を極力使用しないことと土壌鉱物を有機物の投入により保護し、風化に強くしておく必要があります。
以上の内容で、黒ボク土のデメリットを軽減し、メリットを可能な限り享受出来る準備ができました。
後は土壌の劣化を考えるために地力について整理するに記載した土の劣化についてを意識しながら栽培をすれば秀品率の急激な低下は避けられるようになるはずです。
補足ですが、今回の記事の有機物は腐植酸を用いるのが望ましいです。
余談
黒ボク土に限らずの話ですが、畑のど真ん中にスギナが生えている場合は、速やかに休耕すべき(もしくは施肥設計の変更)だと伝えています。
スギナの根にはアルミニウムの耐性があり、他の草が生育できないような環境であるため、スギナが目立つようになっている可能性があります。
スギナの不思議の件 | みんなのひろば | 日本植物生理学会
作物も他の草同様でアルミニウムに弱いので、スギナの繁茂 = 秀品率の低下に繋がります。
このような畑では追肥の頻度が上がり、農薬の使用量も上がってしまう為、年々経費が上がるのに対して利益率が低下するので、現状を放置すると離農に繋がります。
スギナは除草が難しく強い草というイメージがあるみたいですが、決してそんな事はなく、スギナが生えている環境こそが経営的に深刻な症状だと捉えることが大事です。