京都農販日誌
リン酸過剰問題に対して腐植酸の施用は有効か?
2023/05/08
リン酸の施肥を意識することを勧めていますの内容をお伝えした方からリン酸の過剰蓄積問題に対して腐植酸の散布が有効だと当たりを付けて試していて、効果も実感しているという連絡を頂きました。
この話題が挙がった時にリン酸の過剰蓄積に関して腐植酸は本当に有効なのですか?という質問も挙がりましたので、腐植酸について見ていくことにします。
腐植酸に関して一番わかり易いのは未調整のピートモスになりますので、最初にピートモスについて触れます。
ピートモスは名前からミズゴケ(英語でモス)を堆肥化したものとイメージしがちですが、実際は湿地に堆積した植物の死骸が腐植化した層(泥炭層)を利用しやすいように加工したものを指します。
湿地に蓄積した泥炭であるため、腐植酸を豊富に含みます。
使用上の注意点としてよく言われるのが、腐植酸を豊富に含む為、pHが低い(未調整であればpHは3〜4)傾向にあります。
この注意点はリン酸過剰蓄積の土壌では有効に活用出来る特徴となります。
土壌中にあるリン酸はリン酸無しの基肥の試験栽培を行っていますの記事に記載していますので、事前に読んで頂くとしまして、今回注目したいリン酸はカルシウム型リン酸、鉄型リン酸とアルミニウム型リン酸になります。
これらのリン酸は強酸に触れることで、植物が利用しやすいリン酸に変わります。
例:カルシウム型リン酸 + 腐植酸 → カルシウムイオン + リン酸イオン + 腐植酸
腐植酸には更に興味深い働きがあります。
図:藤嶽暢英 土・水環境に遍在するフミン物質の構造化学的特徴とその多様性 学術の動向 2016.2 51ページより抜粋
上の図の腐植酸(フミン酸)のモデルになります。
腐植酸にはベンゼン環と呼ばれる六角形が多くあることが特徴で、このベンゼン環は木質系のリグニンの主成分で、植物性の有機物由来の堆肥の特徴の一つと言えます。
※農文協 作物はなぜ有機物・難溶解性成分を吸収できるのか 198ページの図を参考にして作成
腐植酸の各所にアルミニウムイオン等と結合することが出来る箇所があり、アルミニウム等の結合力の強いイオンが入り込むことで腐植酸は大きく、土壌微生物によって分解されにくい構造へ変化していきます。
腐植酸とアルミニウムイオン間の繋がりの箇所は
のように腐植酸-アルミニウム(Al)-リン酸のように結合することもあり、このリン酸は植物にとって吸収しやすく利用しやすい形状になっています。
リン酸過剰問題を抱えた土壌に対しての腐植酸の施肥をまとめますと、腐植酸の強酸により難溶性のリン酸の利用を促し、残りは利用しやすい形で腐植酸に付着します。
今回は触れませんでしたが、腐植酸そのものが土壌中に粘土鉱物と結合し物理性が向上する。
土壌の物理性が向上することによって土壌の生物性が栽培にとって有利な環境に向かい、難溶性のリン酸の溶脱が得意な菌が優位になる可能性があり、リン酸の利用が更に促されます。
※強酸のシュウ酸を分泌する糸状菌等、シュウ酸によりアルミニウム型リン酸が利用可能になるといったことがあるかもしれません
西野勝俊等 抗菌物質・シュウ酸アルミニウムのマツタケシロにおける普遍的存在 - 日本きのこ学会誌, Vol. 26(1) 24-27, 2018
緑肥の栽培時に腐植酸の活用を組み合わせれば、緑肥の効果が更に高まるかもしれません。
追記
今回の記事で強酸の話題が頻繁に挙がりましたが、土壌のpHは大丈夫?と不安になるかもしれません。
この心配は不要でして、リン酸過剰な畑では土の化学性の緩衝性(pHが変動しにくくなる)要因の炭酸石灰も過剰にあることが多い上、土に腐植が定着することでも土の緩衝性が高まり、栽培時のpHによる不調が軽減されます。