京都農販日誌

京都農販日誌

米の粒の大きくしたいという相談がありました

2023/10/24


稲作と米の加工(米粉)をされている方から、米の粒を大きくしたいという相談がありました。

栽培で意図的に米粒を大きくするのは可能なのか?という疑問はありますが、話題が挙がった背景がありまして、その時の内容をこれから記載します。


同じ水源を利用した近隣の二枚の田で、同じ施肥設計で同じ栽培方法(どちらも中干し無し)の栽培で、片方の田は例年通りの米粒の大きさでしたが、もう片方の田では大きめの米粒でした。

ここから穂肥をどうにかしたら米粒は大きくなるのではないか?という考えになったそうです。



ただ、二年程前に穂肥をしたらイネの収穫期に近づいても葉の色が落ちず、なかなか収穫が開始出来なかったという惨事になり、安易に追肥なんてするものではないという結論になりました。

というわけで、もう少し米粒が大きくなった要因を探ってみます。




物理性を向上させた田の収穫状況から稲作の温暖化対策を考えるの内容と重複しますが、今回の話題に挙がっています田では



稲作終了後速やかにレンゲの栽培を始め、田植え前まで田にレンゲが占拠していることになります。



稲作の収穫直後の稲わらと田植え前のレンゲの鋤き込み時に土壌への植物由来の有機物の固定量を増やす目的で2:1型粘土鉱物(地力薬師)の施肥を行っています。


今回の米粒の大きさに関して、米粒が大きかった方の田の方が冬期のレンゲの栽培が一年程早かったそうです。

であれば、米粒の大きさは土の物理性の改善による発根量の増加と、地力窒素の増強が要因である可能性が高いです。

地力窒素について




ここからは生物学的観点で実の充実に関する内容を見ていきます。

はじめに養分転流という用語に触れます。



実を充実させる為には葉で生産された養分を移行する必要があり、この移行を養分転流と呼びます。

養分転流には植物ホルモンのサイトカイニンが関与すると言われています。


サイトカイニンですが、高校で生物の授業を受けた方であればサイトカイニンは根で合成されて、各器官に運搬されると習ったと思います。

もう一つ習う事として、サイトカイニンは地上部の成長促進(葉を茂らせ)、根の伸長を抑制するという内容もあります。

この内容は窒素肥料についての記事でも触れました。


おそらくですが、イネの穂重は初期生育時にどれだけ発根量を増やせるか?にかかっていて、栽培の後半でどれ程の地力窒素を発現できるか?にかかっているかもしれません。




養分転流に関しまして、注意すべき内容がありまして、



古い葉から新しい葉への養分転流があります。

成長中に葉から葉への養分転流が発生し過ぎて、肝心の穂重が増える段階で葉から実への養分転流量が足りなければ元も子もありません。


イネで該当するかわかりませんが、葉間の養分転流は亜鉛不足がトリガーとなるという報告がありますので、イネの発根を促進しつつ、根から微量要素をしっかりと吸収できる状態にして、葉間の養分転流を抑えておく必要があります。

※吉本 光希著 植物の必須栄養素から考える植物オートファジーの重要性 - Journal of Japanese Biochemical Society 91(5): 652-658 (2019)


以上の話を総括すると、米粒を大きくするためには初期生育時の発根と微量要素を常に吸収出来る状態にすることが重要になり、



レンゲ米の栽培であれば、わらやレンゲの鋤き込み時に2:1型粘土鉱物の施肥量を増やし、



有機物の確保が難しいのであれば、合わせて廃菌床堆肥(マッシュORG)等を施肥し、栽培後期に養分転流が集中するような施肥設計にすると良いかもしれません。

一覧に戻る

お問い合わせ

弊社へのご相談・ご質問は
こちらからお問い合わせください。

お問い合わせはこちら