京都農販日誌
地力窒素について
2023/10/17
稲作やマルチで土を覆い追肥が難しくなるような栽培で重要になる地力窒素について整理していきます。
サトイモのマルチ栽培であれば、基肥の窒素分全量のうち、1/3を即効性の窒素(主に無機の窒素)、2/3を地力窒素にすることが望ましいとありますが、地力窒素がどのようなものであるかを想像できないと意図通りの施肥することは難しいです。
というわけで地力窒素とは何かについて考えてみます。
はじめに地力窒素の定義を確認してみますと、土壌肥沃度の指標で、微生物により分解、無機化されて作物にとって利用可能になる土壌窒素をさすとなっています。
※地力窒素-ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIAより引用
窒素肥料についての記事で分類した窒素肥料であれば、有機態窒素のペプチドやタンパク質に該当します。
例としては油かす等の食品残渣に含まれるタンパク質、食品残渣を餌にして増殖した微生物の死骸や鋤き込んだ緑肥等があります。
ただ、これらの有機態窒素は土壌の微生物による分解がはやく、地力窒素として扱えるかといえば疑問が生じます。
そこで更に地力窒素についてを調べてみますと、地力窒素の分子実体は何か 土壌には多様な分子量の有機態窒素が存在する - 化学と生物 Vol. 50, No. 4, 2012に下記の仮説が記載されています。
- ・メソポア仮説:アミノ酸や小さなペプチドが鉱物表面および10nm以下の鉱物表面の穴へ吸着
- ・タマネギ層モデル:陰イオン性のカルボキシル基と陽イオン性のアミノ酸が粘土表面で結びつくことにより有機物の多重層を形成
- ・タンパク質リグニン複合体
- ・タンパク質タンニン複合体
- ・カプセル化モデル:ペプチドを高分子有機物により包含
- ・超分子モデル:分子量の小さな有機物の水素結合などによる超分子の形成
上記の内容は難しい内容になっていますが、粘土鉱物やリグニンやタンニンから形成される腐植酸に触れているものが多いので、
団粒構造が形成されたらその中に地力窒素が含まれると考えて良いでしょう。
上記の内容であれば、地力窒素の増加は熟成する程無機窒素が増える家畜糞よりも、
落ち葉(タンニン源)や木質チップ(リグニン源)を主体とし、タンパク源として食品残渣を混ぜた植物性堆肥(+粘土鉱物※)がふさわしいことがわかります。
※粘土鉱物はバーミキュライトやモンモリロナイト等の2:1型粘土鉱物
キノコ栽培の廃培地である廃菌床堆肥が地力窒素の増強に適していることもわかります。
木質チップであるおがくずに米ぬか等の食品残渣を混ぜ、土壌微生物しても存在する菌が米ぬかと木質チップを分解しつつ腐植質の物質を作ります。
米ぬか由来の有機態窒素と菌そのものの死骸の窒素が分解されつつある木材由来のリグニンと混ざり合い、地力窒素を含む堆肥となります。
堆肥で地力窒素としての量を計算して施肥することに不安がある場合は、
地力窒素ではありませんが、コーティング肥料で栽培の後半に窒素を効かせるという手段もあります。
※コーティング肥料を利用する際の注意点に関してはネギ作の間に行う稲作の効果を高めるにはをご覧ください。
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