京都農販日誌

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飼料や発酵方法から鶏糞の成分を考える

2024/02/15


産卵鶏と肉鶏の鶏糞の違いは何か?が話題になりましたので整理してみます。

今回の内容は神奈川県相模原市で養鶏を営むコトブキ園さんから教えて頂きました飼料の事情を参考にしています。

※今回の内容では地鶏や平飼いから得られた鶏糞は対象外です。

コトブキ園 神奈川県相模原市の養鶏場 たまご街道 コトブキ園たまご




先に産卵鶏のみに焦点を絞り、有機質の肥料としての鶏糞の質を決める要素を整理しておきますと、

  • 与えている飼料
  • 摂取した飼料の消化率
  • 鶏糞の発酵具合

になるかと思います。

ちなみに冒頭の写真は排泄したての未熟鶏糞(左)と完熟鶏糞(右)になります。


はじめに産卵鶏の飼料についての一般的な構成についてを見てみます。

具体的な数値は専門ではないので控えますが、主の穀物としてトウモロコシ、植物性油脂として大豆粕、動物性飼料として魚粉を少々になり、後はふすまや米ぬかを配合していくそうです。


産卵鶏の鶏糞を考える上で絶対に外してはいけないのが、



卵の殻を固くするために給餌する炭酸石灰(炭カル)リン酸石灰(リンカル)があります。

これらの飼料が鶏の体内で消化されて低分子化されたり、そのまま排出されたりして、肥料としての鶏糞の成分に影響します。




続いて、摂取した飼料の消化率の話題になりますが、鶏は下痢になりやすく飼料が効率良く吸収されずに飼料のコストが上がるという悩みがあるそうです。

コトブキ園さんから教えて頂きました内容では有機態リン酸であるフィチン酸炭酸石灰の消化率の話題が挙がりました。


消化に関しては炭酸石灰がわかりやすく、



産卵鶏の鶏糞を割ってみると白い石がたくさん出てきます。

これは未消化分の炭酸石灰であることが多いです。


消化率の低さに関しまして、リン酸の利用率を高める為のフィターゼという酵素を飼料に配合していたり、

フィターゼ添加による産卵鶏の植物性飼料中リン利用率向上技術 - 福岡県農業総合試験場研究報告24(2005)



飼料を発酵して酸由来の有機酸を利用して炭酸石灰の吸収率を高める工夫をしているそうです。

有機質肥料を使用する時に意識したいこと




最後に鶏糞の発酵具合について触れたいのですが、その前に鶏糞で他の家畜糞にはない特徴について触れておきます。

鶏は鳥類の家畜になりまして、牛や豚といった哺乳類の糞尿と形状が異なります。



大きな違いは鶏の尿は尿酸と呼ばれる白い固形になります。

この尿酸というのは窒素の形態としてはアンモニア態窒素に近い形をしていまして、無機並みの肥効の速さがあります。

窒素肥料について


排泄直後の尿酸の量は糞全体の窒素の大体4割近くを占めるそうです。

排泄直後鶏ふんの試料採取法と尿酸態窒素含有量 - 三重県


糞中の尿酸の量を踏まえた上で、鶏糞の発酵具合に話題を移します。



排泄された糞尿を農場の外に持ち出す場合、何らかの発酵処理を行わなければならないそうです。

ただ、この発酵処理に関しましては厳密な決まりがあるわけではなく、バケットを持つトラクターでかき混ぜるのみの方もいれば、



大型のロータリー式発酵装置を導入して徹底的に好気呼吸で有機物を分解して、体積が減ったところで運搬をされる方もいらっしゃいます。

ロータリー式発酵装置|製品・サービス紹介|株式会社岡田製作所


お会いしたことはありませんが、鶏糞を炙って水分を飛ばして処理は終了という方もいらっしゃるそうです。

※上記の処理で出来る鶏糞を火力鶏糞乾燥鶏糞と呼ぶ事が多いそうです。


鶏糞の発酵では、最初に尿酸をアンモニアにし一部揮発し、残りのアンモニアは硝化作用により硝酸に変化する反応を経ます。

糞に含まれる有機物は無機化され、これらも硝酸へと変化していきます。


バケットでかき混ぜたり、火力鶏糞では尿酸が多く残っている状態でアンモニア態窒素 + 少量の有機物といったイメージの肥料になりまして、徹底的に発酵処理を行ったものは硝酸態窒素 + 有機物といった肥料になります。

一般的に鶏糞は安価な窒素肥料として使用する方が多いのは、上記の特徴があるからです。


ここで一点注意が必要になりまして、先程鶏糞の品質には飼料の消化率が関わるという内容を記載しました。

主に挙げた内容は有機態リン酸と炭酸石灰になりまして、鶏糞を安価な窒素肥料として捉えていると後々石灰過剰症の障害に陥ります。

石灰過剰問題について


鶏糞を使用したい場合は石灰によるpHの調整は行わないであったり、pHの調整を石灰で行いたいのであれば鶏糞は使用しないといった栽培ポリシーを持つべきです。




以上の内容を踏まえまして、ロータリー式発酵装置で徹底的に発酵処理を行っているコトブキ園さんの鶏糞の成分を確認してみます。


項目 結果 単位
水分24.9wt%
灰分54.5wt%
pH9.1
電気伝導率6.16mS/cm
窒素全量2.2wt%
リン酸全量5.3wt%
カリ全量1.3wt%
石灰全量18wt%
苦土全量1.7wt%
C/N比11.5

鶏糞堆肥 | 神奈川県相模原市の養鶏場 たまご街道 コトブキ園たまごの分析・試験成績報告書を参考にして作成


窒素、カリや苦土の量に対して石灰が多い事がわかります。

石灰が多いからかpHも高めです。

※コトブキ園さんでは、鶏糞の発酵の際に植物性の有機物を加え、カリとC/N比の改善を行っています。




産卵鶏の鶏糞の特徴がわかりましたので、冒頭の話題の肉鶏について考えてみます。

肉鶏と産卵鶏の飼料を比較してみますと、植物性油脂と動物性飼料の割合が増え飼料全体のタンパク質の量が増えます。

他に炭酸カルシウムは与えません。


これらを加味すると、肉鶏の鶏糞は産卵鶏と比較してpHは中性付近で、石灰の量は減ると予想できます。


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