京都農販日誌
鉄鋼スラグで稲作のメタンの発生の抑制することはできるか?
2024/04/07
物理性を向上させた田の収穫状況から稲作の温暖化対策を考えるの記事で触れた内容になりますが、今後猛暑日が増え続けると予想されている中、田に水を入れ続けることにより高温障害を回避できる可能性がありますが、田に水を入れ続けることにより強力な温室効果ガスであるメタンガスが発生しやすくなるという話題があります。
メタンガスの発生に対して、鉄鋼スラグが有効だという意見を見かけましたので、今回は鉄鋼スラグについて触れてみます。
先におさらいになりますが、田に酸化した鉄を施肥することで、メタンガスの発生を抑える事ができます。
詳しくは稲作と酸化還元電位をご覧ください。
鉄鋼スラグというのは、製鉄の際に鉄鋼の原料となる鉄鉱石から鉄を取り出した後の残渣になります。
鉄鋼スラグの名称から酸化した鉄を含んでいるように感じますが、製鉄の観点から見ると鉄が取り除かれているので、鉄鋼スラグにはほとんど酸化した鉄が残っていないかもしれません。
実際のところはどうなのか?
鉄鋼スラグが発生する過程を見ていきます。
鉄鋼スラグ協会が発行している鉄鋼スラグとは?の資料がわかりやすかったので、この資料を参考にして話を進めます。
鉄鋼スラグには種類がありますが、肥料に関係している電気炉系スラグの還元スラグについて見ていきます。
鉄鋼の原料である鉄鉱石から鉄の成分を取り出す時、鉄鉱石を高温で溶解する必要があり、
石炭由来のコークスを混ぜることによって温度を高めて溶解します。
鉄鉱石や石炭には鉄以外の成分(不純物)があるため、これらの成分を取り除く必要があるが、石灰石を混ぜて反応させることによって、不純物を除去することができます。
ここでいう不純物にはシリカ、アルミニウム、マグネシウムやマンガンが含まれ、どれも肥料として価値のあるものとなっています。
石灰で鉄鉱石から不純物を除去しているので、スラグには当然大量の石灰(生石灰)が含まれています。
上記の鉄鉱石とコークスを混ぜて製鉄する過程は高炉の話題なので、これから肥料に関係している電気炉の方に話題を移します。
電気炉の方でも鉄(スクラップと記載されている)に石灰を混ぜて反応を進めています。
電気炉系では鉄を何度も石灰と反応させているので、肥料用の鉄鋼スラグの組成を見てみると、鉄のトータル量が全体の0.3%とほぼ除去されています。
カルシウム(石灰)が55%、シリカが18%と鉄鋼スラグ肥料はシリカを含む石灰肥料という認識で使用した方が良さそうです。
少量でも鉄が含まれているから鉄鋼スラグが稲作のメタンの抑制に有効ではないか?と捉えて使用したくなりますが、連作障害が発生しにくい稲作とはいえ、カルシウム含有量が高い肥料をカルシウム施肥の用途以外で施肥するのは避けたいところです。
これからの稲作を考えると、サビた鉄粉が大量に手に入れば良いなと思うところです。