京都農販日誌

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無機肥料の肥効と副作用について

2024/06/26

特定の肥料成分のみ施肥したい(カルシウム欠乏の症状が見られたので、カルシウムを施肥したい)ということで無機肥料を使用することがあります。

無機肥料は有機質肥料と比較して、肥効がわかりやすいですが、意図していない副作用のようなものも起こりやすいという特徴があります。


今回は硫酸塩肥料を中心にして、無機肥料の肥効について見ていきます。




無機肥料の一例として、無機の石灰(カルシウム)肥料について見ていきます。


石灰(カルシウム)肥料を列挙しますと、

  • ・塩化カルシウム
  • ・硫酸カルシウム
  • ・硝酸カルシウム
  • ・有機酸カルシウム
  • ・炭酸カルシウム(有機石灰含む←貝殻石灰や卵殻カルシウムを指す)
  • ・リン酸カルシウム(骨粉の主成分)

等があります。

※消石灰(水酸化カルシウム)、生石灰(酸化カルシウム)と酸素供給剤(過酸化カルシウム)は用途が異なりますので今回は省略します。


各々のカルシウム肥料を眺めますと、命名規則が◯酸カルシウムになっていて、◯酸の肥料であるかで肥効の速さや副作用の予想が付きます

※塩化カルシウムには◯酸がありませんが、強いて挙げると塩酸になります。


肥効で重要になってくるのが、即効性か遅効性になりまして、即効性の肥料であれば追肥に用い、遅効性の肥料であれば基肥に用います。

肥料袋の成分表には、水溶性かく溶性の表記がありますが、水溶性が即効性になり、く溶性が遅効性になります。


成分表には上記よりも細かい表記の記載はありませんが、施肥の無駄を無くす為には更に細く見ていく必要があります。

その時に用いる指標が、カルシウム肥料であれば◯酸カルシウムの◯酸の箇所になります。




無機肥料、有機肥料どちらもになりますが、施肥した後に肥料が効くのは、肥料成分が水に溶けてからになります。

なので、肥料成分の水への溶けやすさが指標となります。


水に溶けやすい肥料を水溶性と呼び、水には溶けにくいが、根から放出される根酸で溶ける肥料をく溶性として扱います。

先程のカルシウム肥料の一覧では、

水溶性:塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム

く溶性:炭酸カルシウム、リン酸カルシウム

※有機酸カルシウムに関しては一旦保留とします。

※例外として、過リン酸石灰は水溶性になります。


硫酸カルシウム(CaSO4)の肥効を見てみますと、硫酸カルシウムを水に溶かすと

CaSO4 → Ca2+ + SO42-

のようにカルシウムイオンと硫酸イオンに分かれ、どちらも植物の根に吸収されます。


ここで一点注意点としまして、植物は硫酸イオンをあまり必要としないので、大半の硫酸イオンは他の何らかの成分と結合して土壌中に蓄積されます

残留した硫酸イオンが後の栽培で土壌のECを高め、根の吸水ストレスを高めたり(塩類集積)、硫化水素の発生源になる可能性があります。

※吸水ストレスに関しましてはハウス内の塩類集積対策についてをご覧ください。

※硫化水素に関しましては土壌消毒後に鉄欠乏の症状が表れたをご覧ください。


水溶性のカルシウムで残留性を考えたくないのであれば、硝酸カルシウムを選択したくなりますが、カルシウムの肥効と同時に硝酸態窒素の肥効も生じますので、カルシウムのみ施肥したい場合には向いていません。




続いて、く溶性(遅効性)の炭酸カルシウム(有機石灰)の肥効について見ていきます。

く溶性の肥料は根酸によって溶けてから肥効を示します。

根酸の例として、クエン酸溶液で炭酸カルシウム(CaCO3)を溶かす反応を見てみます。


CaCO3 + クエン酸 → クエン酸カルシウム + H2CO3

でクエン酸カルシウムと炭酸(H2CO3)になります。


クエン酸カルシウムは一旦置いときまして、炭酸の方の反応を更に見てみますと、

H2CO3 → H2O + CO2

水(H2O)と二酸化炭素(CO2)になりまして、炭酸カルシウムは残留性の少ない肥料であることがわかります。


クエン酸カルシウムは水溶性になりまして、水に溶かすとカルシウム肥料として速やかに効き、クエン酸の方は土壌の微生物によって水と二酸化炭素に分解されます。

※上記の反応はクエン酸の代わりに、酢酸(食酢)でも同様の効果を期待できます。


無機肥料の残留性を気にされている方は、即効性のカルシウムを効かせたい時に、硫酸カルシウムを用いず、事前に有機石灰をクエン酸溶液で溶かしてから施肥しています。

クエン酸溶液で溶け切らなかった炭酸カルシウムはく溶性として残りますので、長い肥効が期待できます。

※リン酸カルシウムも同様の効き方をしますが、残留成分は注意する必要があります。

リン酸の施肥を意識することを勧めています




今回の内容は加里(カリウム)や苦土(マグネシウム)でも同様に考えることができます。

ここで一つ注意すべき点として、基肥、もしくは追肥で効きがわかりやすい硫酸塩肥料を多用してしまうことがあります。


土壌消毒後に鉄欠乏の症状が表れたの内容でも触れましたが、基肥の土壌改良材以外の肥料のほとんどを硫酸塩肥料(硫安、硫加、硫マグや石膏)にしている方がいました。

硫酸塩肥料は施肥した後に比較的早くに肥効が出て安心できますが、その後の想定していない副作用は怖いので、施肥はできる限り様々な塩(えん:◯酸のつく肥料)を組み合わせることをおすすめします。


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