京都農販日誌

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保水性の向上に関わる有機物について

2024/11/25

夏の猛暑日対策として、土壌の保水性を向上させたいという話題が頻繁に挙がります。

保水性に関しては猛暑日対策で田畑の土の保水性を高めるで触れましたが、改めて整理しながら保水性の向上について考えてみます。


土壌環境のうち、土壌粒子の質の向上に関して栽培者が出来る内容は鉱物か有機物の投入のどちらがあります。

前者の鉱物では、保水性を高めるのは、粘土鉱物がありますが、投入量が多いと土を固めてしまうというデメリットがあります。

地質図から訪れたことのない遠方の土質を予想する1


粘土鉱物のデメリットは大きいので、保水性を高める場合は後者の有機物の投入を主で考えていく必要があります。




保水性が高い有機物は、一般的にヒドロキシ基(-OH)を多く持つ高分子化合物だとされていまして、


Slashme - Redrawn from public-domain image Image:Cellulose-2D-skeletal.png uploaded by User:Benjah-bmm27, パブリック・ドメイン, リンクによる


植物の繊維のセルロース等が該当します。




話は少し脱線しますが、セルロースに関して、工業面の話題で興味深い内容がありますので紹介します。

甲野裕之 水を持ち運ぶ化学 ―木質を用いた高吸水性樹脂の開発― 化学と教育 66巻8号(2018年)に高吸水性樹脂の開発で、セルロースを原料にした時の内容が記載されています。


高吸水性樹脂というのは、大量の水を吸収して瞬時にゲル化し,圧力をかけても離水しない機能性高分子材料を指し、紙おむつ等に利用されます。


高吸水性樹脂の原料としてのセルロースですが、構造上欠点がありまして、セルロースをそのまま樹脂として利用することはできないそうです。

多くのヒドロキシ基を持つのですが、


図:甲野裕之 水を持ち運ぶ化学 ―木質を用いた高吸水性樹脂の開発― 化学と教育 66巻8号(2018年) 395ページ 図2より引用


縦方向の間隔が短く、吸水量は思った程高くなく、絞れば水が出てきてしまうため、保水性も期待できません。

※上記の内容は高吸水性樹脂の開発での話です。


そんなセルロースの吸水性や保水性を高める為に


図:甲野裕之 水を持ち運ぶ化学 ―木質を用いた高吸水性樹脂の開発― 化学と教育 66巻8号(2018年) 395ページ 図3より引用


カルボキシメチル化を経て、一つのヒドロキシ基(-OH)をCOONa基に置換し、


図:甲野裕之 水を持ち運ぶ化学 ―木質を用いた高吸水性樹脂の開発― 化学と教育 66巻8号(2018年) 395ページ 図3より引用


未置換のヒドロキシ基を化学的な処理を施して、分子間架橋を形成するそうだ。

2本のセルロースの繊維の間の隙間が大きくなることにより、水の吸収量や保水性が高まります。


上記の話では、工業的な処理によりセルロースの保水性を高めましたが、自然環境下で似たような反応が起これば植物繊維をただ施すよりも効果が高くなる可能性があります。

実際のところはどうなのだろう?ということで、調べてみることにしました。




図:甲野裕之 水を持ち運ぶ化学 ―木質を用いた高吸水性樹脂の開発― 化学と教育 66巻8号(2018年) 395ページ 図3より引用


カルボキシメチル化ですが、この反応を行う事が出来る微生物は存在するか?について調べてみます。

佐藤弥生等 テンペ製造菌Rhizopus oligosporus IFO 32002によるカルボキシメチルセルラーゼの生産とその酵素化学的性質 日本家政学会誌 Vol.61 No.7(2010)に拠りますと



大豆を発酵させて製造する食品のテンペの製造に関与する微生物が生合成する酵素にセルロースのカルボキシメチル化するものがあるそうです。

テンペは伝統的な発酵食品ですので、発酵に関与する微生物はどこにでもいる可能性があります。




続いて、分子間架橋ですが、天然素材のセルロースを凍らせるだけ!強い機能性ゲル材料を新たに開発- 凍結によるセルロースの結晶相転移と簡易なゲル合成法を発見 -|プレスリリース|J-PARC|大強度陽子加速器施設セルロースを低濃度の水酸化ナトリウムを含む条件で凍らせて、クエン酸を加えて、溶かすだけで、高強度の構造を形成するという内容が記載されていました。


土壌中で強塩基(pH高め)の水酸化ナトリウムの条件は難しいですが、それ以外は十分あり得る内容になっています。

この話を読んだ時に、どこに記載されていたか?は覚えていませんが、




有機物を施した畑の土で、冬期の寒さで霜が立つことによって土壌の団粒性は発達するという内容がありまして、もしかしたらセルロースの構造が変化して保水性が向上する?という事が頭に浮かびました。




セルロースを土壌に施しても、粘土鉱物と結合する箇所が見当たらずに、なかなか土に残留しないのでは?と疑問が生じます。

これは粘土鉱物 + 腐植により形成された土のタネのようなものに、土壌の糸状菌等が更に大きな団粒を形成する際にセルロースも取り込む可能性がある為、保水性を高める時には合わせて腐植酸の施肥も大事だということが予想されます。

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最後にセルロースを安価に大量に手に入れる件ですが、



マメ科のクズ等が成長旺盛で細長い茎が多くて良さそうです。

クズは草刈り時に絡み大変だと言われますが、草刈り機も発達してクズも楽に刈ることが出来るようになっているそうです。

【取付比較】厄介な「ツル」をブルモアーで楽に刈る方法 - オーレック公式チャンネル - YouTube


草刈り機にクズを回収出来る仕組みも備われば、クズが良質な資源に化けるかもしれません。

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