京都農販日誌
地質図から訪れたことのない遠方の土質を予想する1
2024/08/23
まだ訪れたことのない遠方の地域に行く際に、事前に何を調べているのか?という質問がありましたので、着目している内容を整理してみます。
まだ訪れた事のない地域の栽培で事前に把握しておきたい内容は
- ・土質
- ・気候
になります。
土質であれば、農研機構が提供している日本土壌インベントリーがありますが、こちらのWebサービスは規模拡大をされる方が新しいほ場を探す際に威力を発揮しますが、土地勘のない地域では、表示されている内容から想像するのは難しく、他の地図を参考にしています。
その地図というのは、産業技術総合研究所が提供している20万分の1日本シームレス地質図になります。
これから土質を調べる時に地質に注目している理由について触れていきます。
土壌学を学ぶ際に最初に触れるであろう内容は、山地の母岩が風化し、生物作用により土壌が生成されるということではないでしょうか。
土壌の基となる母岩というのは、
岩石そのものになります。
土を学ぶ上で母岩を意識すると得られる知見が増えるかもしれませんで触れた内容になりますが、土は基となる母岩の影響を大きく受けていまして、遠方の土が何の母岩から形成されているか?の情報を得られると、土の特徴も予想しやすくなります。
なので、様々な岩石について学んでおくと、地質図を見た時に得られる情報の量が増えます。
農業に携わる方が岩石を学ぶに当たって、
朝倉書店から出版されている基礎地球科学等の地球科学系の本を読んだ方が良いと言いたいところですが、地質と土質を紐付ける上でおすすめの本がありまして、その本というのが
山と渓谷社から出版されているくらべてわかる岩石になります。
はじめに岩石の本では岩を
マグマが冷え固まった火成岩、
凝灰岩、石灰岩や泥岩等の堆積岩と
緑色片岩等の変成岩の大きく3種類に分類されます。
この内、火成岩から触れていくとわかりやすいので、地質図と火成岩を照らし合わせながら見ていくことにします。
※各々の岩石の詳細は紹介した本をご覧ください。
火成岩を見るに当たって、最初に押さえておきたい資料としまして、
図:火山と火成岩 - センサー地学 - 新興出版社啓林館より引用
火成岩の分類の表があります。
火成岩の分類表の練習の為に
京都府の夜久野町の田倉山周辺の地質図と照らし合わせてみます。
田倉山の地質を調べてみますと、アルカリ玄武岩・粗面玄武岩溶岩・火砕岩となっています。
火成岩の分類表を確認すると、塩基性岩に分類され、Caに富む斜長石、鉄やマグネシウムを豊富に含む輝石とかんらん石という鉱物から構成されていることがわかります。
他に砂地の特徴である石英がほぼ含まれていないということもわかります。
※山と渓谷社のくらべてわかる岩石の序盤に岩石を構成する各鉱物(造岩鉱物)の化学組成に記載があります。
※塩基性岩は別の定義で苦鉄質に分類され、この用語が後日の記事で重要になります。
鉄を豊富に含むということで、夜久野の母岩が風化されているところを確認してみますと、
真っ赤な土になっていました。
この土は腐植のような有機物を溜め込む特徴がありまして、周辺の土を見てみますと
京都では珍しい真っ黒な土でした。
土質を調べてみると、アロフェン質黒ボク土でした。
腐植の溜めやすさ、つまりは造岩鉱物(一次鉱物)の風化後に形成される粘土鉱物(二次鉱物)は
※表:塚本斉等 風化粘土の生成と変遷 - 応用地質29巻 3号 1988より引用
になり、
※粘土の陽イオン交換容量(CEC)の測定と交換性陽イオンの定量 - 産総研より引用
緑泥石(クロライト)、バーミキュライト、モンモリロナイトとアロフェン(CEC:30~200)のようなCECが高い粘土鉱物が栽培上有用だとされています。
※緑泥石はCECが低いですが、風化することでモンモリロナイトのようなCECの高い粘土鉱物に変成します。
次に酸性岩を母岩とする地域を見てみましょう。
酸性岩に豊富に含まれている石英は風化しにくく、上の写真中央にある透明の石として堆積し砂壌土となります。
石英には腐植などの有機物を溜め込むことができず、ふかふかな土になりにくいという特徴があります。
京都北部の京丹後に花崗岩を母岩とする山を切り開いて農地にした箇所がありますので、そちらの畑の土を見てみますと、
酸性岩を母岩としているような白っぽい土が広がっていました。
塩基性岩と酸性岩を母岩とする各々の土を見て、土壌の特徴は基となる母岩からある程度予想が付くことがわかります。
土の色からCECの数値もある程度予想することができ、今回は省略しますが土壌分析に母岩の特徴が見られます。
堆積岩に関しては、堆積岩の種類によって着目すべき内容が異なります。
堆積岩の一種の石灰岩に関しては以前石灰過剰問題についての記事で石灰岩帯について触れていますので、そちらを参照してください。
他の堆積岩に関しては機会があれば触れることにします。
凝灰岩に関しては青い石が出る園地は良いミカンが出来るという言い伝えについての追記で触れています。
変成岩に関しては青い石が出る園地は良いミカンが出来るという言い伝えについての記事で変成岩の一種である緑色片岩についての内容を記載しました。
他にも触れるべき変成岩で蛇紋岩がありますが、それは機会があれば触れることにします。
気候に関しては今回の記事では省略します。
余談になりますが、玄武岩と石灰岩が風化してでき、腐植があまり蓄積されていない状態の土壌はどちらも暗赤色土と呼ばれます。
玄武岩を母岩とする方は紛らわしい名前になるのですが、酸性暗赤色土と呼ばれ、
石灰岩を母岩とする方は石灰性暗赤色土と呼ばれ、土としての性質は大きく異なりますので注意が必要です。
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追記
各種造岩鉱物について詳しく知りたい方は
誠文堂新光社から出版されている薄片でよくわかる 岩石図鑑含まれる鉱物や組織で種類を知る チームG編がおすすめです。