
京都農販日誌
C/N比の高い有機物の腐熟について
2025/03/14
有機物の腐熟に関しての話題が挙がった時に気になった事がありましたので整理してみます。
有機物の腐熟と聞いて連想する事として、緑肥等の刈草に石灰窒素や家畜糞等を加えて腐熟を促進するといったところでしょうか。
刈草に石灰窒素を加える理由はC/N比の改善が主になります。
C/N比とは、土壌や堆肥などの有機物中に含まれる炭素(C)と窒素(N)の量の割合を示す指標になりまして、C/N比の高い資材は土に還り難いとされ、石灰窒素等のC/N比を下げる資材を加える事で、土に還り易くします。
この話ですが、C/N比が高い資材に対して、安直にC/N比を下げて腐熟を促進しようと試みるべきでは無いと考えています。
今回はその内容を丁寧に見ていきます。
C/N比の高い有機物を挙げますと、先程挙げました刈草の他に
木の枝葉等を集めた剪定枝といった木質資材があります。
これらの有機物の主成分は植物繊維であるセルロースや木質のリグニンがあります。
セルロースとリグニンを共に利用できる菌には白色腐朽菌(主にキノコ)がいて、セルロースのみを分解する菌で有名なものとしてトリコデルマがいます。
※セルロースは後に保水性の要素となり、リグニンは団粒構造の主の材料(腐植酸)になります。
これらの菌の関係はキノコ栽培上の問題として頻繁に挙がりまして、有機物の腐熟でも関与してきます。
キノコ栽培における白色腐朽菌(シイタケ菌等)とトリコデルマの関係ですが、トリコデルマは菌寄生菌に分類される菌で白色腐朽菌を捕食します。
キノコ栽培時に原木や培地にトリコデルマが混入するとキノコが生えなくなり、キノコ農家の収入が激減します。
この白色腐朽菌とトリコデルマの関係ですが、培地内の窒素の量が大きく関係しているそうです。
共立出版から出版されています深澤遊 キノコとカビの生態学 枯れ木の中は戦国時代という本に興味深い実験の結果が記載されています。
一つは培地内でシイタケ菌(白色腐朽菌)を増殖させ優先状態にさせた状態に、トリコデルマを混入させ様子を見るという実験です。
培地は二つあり、一つはグルコース(ブドウ糖)が添加された培地で、もう一つはキシロースが添加された培地になります。
※キシロースやグルコースよりも利用し難い糖
結果はグルコースを添加した方ではトリコデルマが増えませんでしたが、キシロースの方ではトリコデルマが増え、培地内で優占種となりました。
もう一つは木粉の塊にシイタケ菌(白色腐朽菌)とトリコデルマを入れ、木粉に無機窒素の硫安を添加するという実験になります。
硫安の添加量が少ない木粉ではシイタケ菌が優勢になり、添加量が多い木粉ではトリコデルマが優勢になりました。
上記の内容を有機物の腐熟に当てはめてみます。
以下の話は空気中に白色腐朽菌とトリコデルマが普通に漂っていて、どちらも自然に有機物に付着するということを前提にして話を進めます。
刈草の腐熟の場合は、有機物の主な成分はセルロースになり、リグニンはあまり含まれていません。
この場合は白色腐朽菌とトリコデルマのどちらが優勢になっても構いませんので、有機物の腐熟の為に石灰窒素や家畜糞を加えても問題ありません。
剪定枝等の木質資材の場合は、有機物の主な成分はリグニンになり、白色腐朽菌を優勢にしないと堆肥としての効果を発揮しません。
であれば、木質資材の腐熟にはC/N比の改善の為に石灰窒素等を加える事がマイナスになりまして、
米ぬか等の炭水化物(糖質)を多く含む有機物を加える事が有効になります。
腐熟によく用いられる鶏糞のC/N比が8前後で、米ぬかのC/N比が20前後になりまして、C/N比が刈草より高い木質の有機物にC/N比が比較的高めの有機物を混合した方という事をしっかりと意識しておく必要があります。
以上の話を踏まえて、最後に触れておきたい内容があります。
上の写真は河川敷の刈草を山積みしていたものになりますが、キノコが生えています。
先程の話では刈草の主成分はセルロースと記載しましたが、リグニンも含まれています。
リグニンが含まれているのであれば、当然この成分も堆肥化したくなりますので、刈草の腐熟の促進の際もC/N比の改善よりも炭水化物(糖質)の投入の方が有効であることがわかります。
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