京都農販日誌

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果菜類で土耕から水耕栽培にする前に検討しておきたいこと

2023/05/09


果菜類で土耕では収穫できなくなってきたので、



土耕を辞め、水耕栽培を検討する方と頻繁にお会いします。

検討している方の話を聞いてみると、



立枯病が止まらないということがほとんどでした。


水耕栽培にすれば立枯病に悩まされることはなくなりますが、肥料や燃料の高騰の影響を受けやすく、土作りという生産性を格段に上げる可能性を手放してしまうので、出来ることならば水耕栽培に移らずに土耕のままで栽培していただきたいところです。


今回の記事はハウス栽培での問題点を整理して、解決の糸口を探す事にします。





上の土壌分析の結果はハウス内での果菜類の土耕で栽培が難しくなったと相談を受けた際によく見られる結果です。

EC値が高く塩類(肥料分)が蓄積した状態になっています。


EC過剰は作物の発根に対して大きなストレスを与え、根からの吸水や養分吸収を著しく低下させます。

養分吸収の低下により、収量の減少はもちろんのこと、生理障害や病害虫からの被害が増大し、土耕では収穫出来ない状態となっていきます。



EC過剰の問題に対してはクリーニングクロップとして緑肥を育てた時に土に鋤き込んでも良いですか?の記事で触れていますので、それを参考にしてEC値の改善を行い、再び土耕で収穫出来るようにしていきます。




問題はクリーニングクロップを採用してもなかなか改善しない石灰過剰問題です。

石灰過剰に関して意識しておかなければならない点は二点です。


土壌の基礎 - 新潟県 15ページより引用


1つ目は石灰(カルシウム)は過剰症の障害が生じやすい要素で、他の様々な栄養の吸収を阻害します。

2つ目は土壌に蓄積した石灰の一部に土壌のpHを高い状態で維持するものがあり、pHが下がらないと吸収できない微量要素(鉄、マンガンや亜鉛等)の吸収を阻害します。


2つ目の土壌の高pHは世界の重大な農業問題の一つとして有名です。

植物における鉄吸収 - 新しい植物栄養学入門 - タキイ種苗


土壌が石灰過剰になることで、根肥であるカリウムの吸収が阻害され養分の吸収が落ちます。

更に石灰の化学的性質により鉄等の微量要素の吸収が更に阻害され、光合成におけるエネルギー効率(鉄やマンガンが関与)が下がったり、病原性の土壌微生物に対する耐性(鉄や亜鉛が関与)が落ちます。


この問題を解決するためにはクリーニングクロップをする際、アルカリ性土壌に強い緑肥を採用すれば良いです。

アルカリ性土壌に強い作物に関しては、沖縄の土壌と栽培についての記事で触れています。





次に注目すべき内容は果菜類の立枯病等の潜伏する病気です。

立枯病は定植前に土壌消毒をしても、収穫に入る前辺りに発症が多発し、被害が深刻化することが多いです。

※土壌消毒が効かなくなった辺りから、土耕から水耕栽培への移行を検討される方が多いです。


病原菌が生存する層まで薬剤が届かないことが潜伏の要因である可能性が高く、土壌消毒でどうにかなる問題ではなさそうです。

土壌消毒が効かないのであれば、どのようにすれば立枯病を解決することが出来るのでしょうか?


上記の問題に対して、有効であるかわかりませんが解決の可能性が高い内容を紹介します。



トウモロコシやムギ等のイネ科植物の根から分泌されているものにDIMBOAという物質がありまして、昆虫、病原性真菌、バクテリアといった広範囲に渡る病原に対する自然防御として働くそうです。

このDIMBOAはもう一つ興味深い内容がありまして、根から分泌された際に土壌中の有用な微生物群に対して活性化するといった働きもあります。

長谷川守文 植物の自己防御物質フィトアレキシンの多様性植物は自ら作る多様な抗菌性物質で病原菌に対抗する - 化学と生物 Vol.55, No.8, 2017

山田 小須弥 今日の話題 植物二次代謝産物の多面的な生物活性ベンゾキサジノイド化合物を介した生物機能 - 化学と生物 Vol. 53, No. 10, 2015

DIMBOA - Wikipedia


土壌の深い層に潜伏した立枯病の原因菌に対して、DIMBOAが抗菌的な作用を示すかは不明ですが、堆肥と組み合わせて有用微生物群が優位になれば、立枯病の原因菌は抑制されて病気の発症を抑えることが出来るようになります。

病原性のカビの天敵は何か?


上記の内容を期待する為には、イネ科の緑肥を活用する際に出来る限り深くまで発根させる必要がありますので、緑肥の播種の前に堆肥等で物理性の改善を行う必要があります。

緑肥を利用する前の注意事項をまとめました


緑肥は通常の栽培と異なり連作障害を避けるような作物種を密に育てるので、密でもストレスなく生育(特に根の伸長)を最大限行えるようにすることを意識しながら準備をすることが大事です。

緑肥として利用する作物で根から土壌消毒剤のダソメットに似た成分を分泌するもの(アブラナ科緑肥)もありますが、施設栽培では発根時の伸長の長さを意識した方が良いです。


あとはリン酸の施肥を意識することを勧めていますの記事で記載しましたリン酸の蓄積を意識して株自体の弱体化を防ぎます。

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