京都農販日誌
高温耐性について
2023/10/20
イネの育種(品種改良)のトレンドを追っていると、年々厳しさを増す猛暑日対策としての高温耐性についてをよく見かけます。
イネに限らず、すべての作物(主に夏の果菜類)で高温耐性が必要になるのは間違いないのですが、育種には多大な時間を要する為、高温耐性の品種が登場するまでは栽培技術で駕ぐ必要があります。
そこで今回は高温耐性について考えた後、高温耐性を引き出す為の施肥について考えてみます。
高温耐性について最初に考えることは高温障害についてになります。
高温障害を端的にまとめますと、高温環境下で蒸散が盛んになり、根からの吸水が間に合わず株内が乾燥状態になり生理作用に関わるタンパク(酵素等)の働きが停止(失活)することを指します。
※高温障害のメカニズムについては不明な事が多く、上記の内容は一例になります。
タンパクは高温環境にさらされると、構造が崩れ、本来の役割を失ってしまうことがあり、一度壊れたタンパクの働きは元に戻ることはありません。
上記の現象は熱変性と呼び、詳細を知りたい方は姿をかえるタンパク質 - 日本生物工学会の一読をおすすめします。
栽培での高温障害の回避をタンパクの熱変性を中心にして考えてみます。
最もシンプルな回避方法は
根から水の吸い上げを盛んにして、蒸散によって株内の熱を逃がす方法です。
蒸散で熱を逃がす内容の詳細は猛暑日対策に記載があります。
作物の蒸散量の増加は土の保水性の向上を意識することで実現できます。
植物の高温耐性で注目すべき内容がもう一つあります。
その内容というのがシャペロンになります。
シャペロンというのは、熱変性しかかっているタンパクに入り込むことで構造の維持に関する物質の総称になります。
シャペロンの働きをする物質としてタンパクを挙げることが多いですが、
Calvero. - Selfmade with ChemDraw., パブリック・ドメイン, リンクによる
トレハロースもシャペロンとしての働きがあることが有名です。
おそらくですが、高温耐性の品種改良もシャペロンの発現が主になっている可能性があります。
下記の報告でトレハロースが植物の乾燥耐性に関与しているという記載があるので、高温耐性にも関与しているという仮定で話を進めます。
原島哲 トレハロースの生理作用の探索 一始まりからメカニズムにせまる最新の研究までー - 応用糖質科学
トレハロースと聞いて真っ先に思いつくのが、
キノコ栽培の培地の話題です。
大賀祥治 キノコ廃菌床の家畜飼料としての利用 - 農業および園芸 第88巻 第7号 (2013年)
キノコ菌が培地内のセルロースやリグニンを分解して、貯蔵栄養としてのトレハロースを生成します。
作物の根でトレハロースを吸収できて、体内で活用することができれば、高温耐性が得られるということに繋がります。
植物と菌とトレハロースで興味深い内容があります。
菌根菌と共生した植物からトレハロースが検出され、乾燥ストレスの緩和に関与されています。
今井亮三等 植物におけるトレハロース代謝とその機能 - 応用糖質科学 第1巻 第2号 147―152 (2011)
以上のトレハロースの話をまとめていくと、猛暑日対策に関して施肥でも出来ることが見えてきます。
キノコを栽培した時に用いた培地由来の廃菌床堆肥で土壌改良を行います。
以前、廃菌床堆肥の生物性分析を行った際、堆肥内で生存していた菌がほぼキノコ菌のみだったということもあり、トレハロースが残っている可能性があります。
作物が培地に残っているトレハロースを利用出来るのであれば、高温環境に強くなります。
他に廃菌床堆肥で土壌改良を続けた畑の土の生物性分析を行った時に植物と共生出来る菌の割合が増えていたということがありましたので、生物性の面でも高温耐性が得られる可能性があります。
京都産業21の「企業の森・産業の森」推進事業に採択されました
廃菌床堆肥で物理性の改善を行うことで、土の水持ちも良くなりますので、この面でも高温時の耐性の向上が期待出来ます。
通路に背丈の低い緑肥を生やし土の水持ちを良くし、定期的に草刈りをして蒸散量を高めるという方法もあります。