京都農販日誌

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家畜糞の熟成は鉄を加えることで促進するか?

2024/01/22


家畜糞を野積みにして、定期的に切り返すことで熟成させますが、この時に鉄剤を加えることで熟成を加速させることができるのか?という話題が挙がりました。

この内容を突き詰めると、興味深い話題がたくさん有りますので、丁寧に見ていくことにします。

※以後の内容は個人的な見解になりまして、明確な研究報告等は把握していません。




今回の話を進める上での前提知識として、鉄と電子の話がありますので、先にそちらに触れておきます。

稲作と酸化還元電位の記事で触れましたが、栽培で鉄を活用する時には鉄(Ⅱ)と鉄(Ⅲ)を意識する必要があります。



身近な例を基にして話を進めますと、錆びた(酸化された)鉄を鉄(Ⅲ)とし、錆びていない鉄を鉄(Ⅱ)とします。

鉄(Ⅱ)は鉄(Ⅲ)と比較して、鉄(Ⅱ)はエネルギーのように振る舞う電子が一つ多い状態を指します。

電子の詳細はここでは触れませんが、鉄(Ⅱ)と酸素が反応すると、鉄(Ⅱ)は電子を手放し鉄(Ⅲ)になり、酸素は電子を得て活性酸素が発生します。

茶殻・コーヒー滓が触媒に?繰り返し使用が可能なフェントン反応 - 化学と生物 Vol. 54, No. 5, 2016


健康関連の本で活性酸素についてよく見かけると思いますが、活性酸素は周辺のものを酸化して構造を変えてしまいます。





家畜糞の熟成に話を戻します。

排泄されたばかりの生糞から肥料として利用できる熟成家畜糞になるためには下記の条件があります。

  • 水分量が減り、ベチャッとした状態からコロコロとした状態になる
  • 悪臭が減り、火薬っぽい臭いに変化する

水分量を減らすのは、切り返し等によって水分を飛ばす以外にもう一つ重要なことがあります。


図:藤嶽暢英 土・水環境に遍在するフミン物質の構造化学的特徴とその多様性 学術の動向 2016.2 51ページより抜粋


それは糞に含まれる植物性の有機物から腐植酸のような大きな炭素化合物を形成する事です。

腐植酸のような炭素化合物の形成はポリフェノールを主として、ポリフェノール同士が結合したり(重合)様々な有機物が結合して形成されると仮定して話を進めます。


ポリフェノールと聞いて真っ先に頭に浮かぶこととして、健康関連でよく見聞きする抗酸化作用があるという事だと思います。

抗酸化作用というのは、活性酸素を除去することを指し、活性酸素はポリフェノールによって水や酸素に戻ります。


この時、ポリフェノールは酸化カップリングという反応を経て、他のポリフェノールや有機物と結合して、大きな炭素化合物になります。

ポリフェノール - 大阪大学宇山研究室 Uyama Lab.Osaka University


上記の反応を何度も繰り返すことで、腐植酸のような化合物を形成し、家畜糞はコロコロとした状態へと変化していきます。

この反応は切り返し時に取り込まれる酸素によって促進されますが、ここで鉄(Ⅱ)を加える事で反応が更に促進される可能性があります。


以上の内容の詳細は腐植質の肥料を活用する前に腐植について整理しように記載があります。




続いて、生糞時の悪臭の件ですが、家畜糞という記述はありませんが堆肥化施設に適用される脱臭システムの検討結果に有機物の堆肥化の過程に生じる臭いは嫌気環境下ではスカトールやインドールで、好気環境下ではアンモニア、硫化水素、アルコール類(プロパノール、ブタノールなど)、揮発性脂肪酸(酪酸など)やアミン類(トリメチルアミンなど)などと記載されていて、おそらく家畜糞でも同様だろうと仮定して話を進めます。


家畜糞の熟成は好気環境で考えることが多いので、今回の話題の悪臭はアンモニアや硫化水素だとして話を進めます。



アンモニアを植物に与えると焼けの原因になり、ほとんどの作物の肥料として適していません。


そこで熟成中にアンモニアを硝化作用によって硝酸に変える必要があり、硝酸に変わったら周辺のカリウムと反応して硝石になります。

硝石は黒色火薬の材料とされていますので、家畜糞が完熟に近づくにつれ、アンモニア臭から火薬臭へと変わっていきます。


民間企業のサイトからの引用になりますが、アンモニアから硝酸へと硝化する時、硝化菌(アンモニア酸化細菌等)が関与していますが、これらの菌は鉄や銅が不足すると活性が低下することがあるそうです。

硝化菌(硝化細菌)|排水処理改善・臭気対策 用語集 - ドリコ株式会社 環境薬剤部


堆肥や家畜糞を大量に施肥すると鉄やマンガン等の微量要素が不足しやすいと言われていますので、家畜糞の中に熟成過程に対して十分量の鉄は含まれていない可能性があり、鉄を加えることで熟成が促進される事は十分考えられます。

※鉄は鉄(Ⅱ)と鉄(Ⅲ)のどちらでも構いません

酸化還元電位から家畜糞による土作りを考える




余談ですが、鉄(Ⅱ)は空気と反応しやすく、すぐに鉄(Ⅲ)に変わってしまうため、肥料として散布するのは難しいです、EDTAやポリフェノールでキレートする事で散布しやすい状態になります。

わかりやすいものでEDTA鉄とタンニン鉄があります。

タンニン鉄を利用して秀品率を上げる


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