
お役立ち農業辞書
肥料成分のリン(P)
肥料の三大要素の一つであるリン(P)について見ていきます。
※リンは通常リン酸として吸収されますので、以後はリン酸と表記します。
肥料としてのリン酸(P)は実肥(みごえ)として、果実の形成に必要な要素として扱われています。
実際にはリン酸(P)は光合成で得られたエネルギーの貯蔵や体作りに利用され、成長していく上で重要だとされています。
肥料としてのリン酸には窒素同様、無機リン酸と有機態リン酸があり、それぞれに効かせ方や機能が異なる為、一括りにリン酸肥料として扱う事が難しい要素でもあります。
始めにリン酸肥料を丁寧に分類する事から始めます。
リン酸肥料の前提としまして、化学式にリン(P)を含む化合物であれば、リン酸肥料に成り得ます。
無機リン酸と有機態リン酸の違いは化学式にPを含みつつ、炭素(C)を含まないものを無機リン酸とし、それ以外を有機態リン酸としています。
無機リン酸の例として、リン安(主にリン酸水素二アンモニウム:(NH4)2HPO4)や過リン酸石灰があります。
※過リン酸石灰の化学式は明記されていないことが多いですが、副成分として石灰が含まれている為、Ca(H2PO4)2 + 2CaSO4のように表記することがあります。
有機態リン酸の例として、
穀物の貯蔵リン酸であるフィチン酸(C6H18O24P6)や
※フィチン酸は家畜糞に大量に含まれている可能性がある
魚粉や食品残渣の発酵肥料に多く含まれる核酸(イノシン酸等:C10H13N4O8P)があります。
有機質肥料の骨粉に含まれる骨の成分もリン酸肥料になりまして、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)という成分名でリン酸を含みます。
リン酸肥料は窒素肥料と異なり、肥効は無機態が早く、有機態が遅いということはなく、土壌環境によって肥効が異なります。
リン酸は他の肥料同様、水に溶けることで肥効を発揮しますが、土壌中の金属と反応して無効化するという性質もあります。
※無機態の肥効について、水溶性とく溶性がありますが、詳細は別記事で触れます。
例えば、リン安を施肥して水に溶けるとアンモニアとリン酸に分かれます。
植物の根がリン酸を吸収しますが、すべてのリン酸が吸収されるわけではなく、余ったリン酸は土壌中にありますカルシウム(石灰)、鉄やアルミニウムと結合して無効化します。
カルシウムと結合したリン酸をカルシウム型リン酸、鉄と結合したリン酸を鉄型リン酸、アルミニウムと結合したリン酸をアルミニウム型リン酸と呼びます。
リン酸が何と結合したかによって、再び溶解して吸収できるものや、なかなか溶解せずに土壌に蓄積し続けるもの(難溶性リン酸)になったりします。
※難溶性リン酸:鉄型リン酸とアルミニウム型リン酸
上記の内容に関連してリン酸肥料としての指標として可給態リン酸とリン酸吸収係数というものがありますが、土壌分析の話題の際に改めて触れることにします。
リン酸に関してもう一つ重要な内容としまして、土壌分析のリン酸値で検知されるリン酸とされないリン酸があります。
検知されないリン酸としての代表的なものとしまして、貯蔵リン酸のフィチン酸があり、この見えないリン酸を如何に利用できるかが重要になります。
リン酸肥料の効きは土壌の微生物、特に糸状菌(カビ、真菌)との密接な関係があります。
リン酸の効き易さを表す可給態リン酸が少ないところでは、植物が土壌中の糸状菌と協力して難溶性リン酸の吸収を試みます。
一方、可給態リン酸が多いところでは、植物と糸状菌が協力する必要がなくなります。
ここで一つ興味深い研究があり、植物に対して病原性がある糸状菌(植物に寄生する菌)で可給態リン酸が少ない場合は植物と共生のような動きがありましたが、可給態リン酸が多い場合は寄生のように動いたという事がありました。
土壌中のリン酸量と病原性のカビの振る舞いについて - 京都農販日誌
植物に寄生というのは病原性の糸状菌に感染したということで病気にかかったということになります。
目立った病斑がなかったとしても、寄生されているということは養分を盗られるということになりまして、秀品率の低下に繋がります。
リン酸は過剰症を最も注意しなければならない要素になります。
世界的な問題としてリン酸の枯渇があります。
リン酸は必須要素として考えられている事から余剰に施肥してしまう傾向があるのですが、利用率が低く農業排水として常に流出しています。
河川に流出したリン酸は海まで移動し海底に堆積して回収が難しくなります。
このリン酸の枯渇問題に対して、
下水処理場の汚泥から得られる下水汚泥肥料と
消化器から取り出したリン酸肥料が注目されています。
下水汚泥肥料の成分は主にリン酸石灰になりまして、製造中に関与する微生物由来の有機態リン酸が含まれることもあるそうです。
消化器由来のリン酸肥料はリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)になりまして、使い勝手の良いリン酸肥料になります。