
京都農販日誌
ネギの香りを強くする為の肥培管理
2025/10/02

肥培管理でネギの香りを強くする事は出来ますか?という質問がありましたので、香りについて考えてみます。
※今回の内容はネギに限らず、葉物野菜全般で該当する可能性がある内容になります。
ネギの香りについて思い浮かべてみますと、ヒガンバナ科ネギ亜科(ネギ科と称す事が多い。旧:ユリ科)特有のツンとくる刺激臭と、草を刈り取った時に感じる青臭さが挙がります。
前者の刺激臭は

ギリシャ語版ウィキペディアのAndromeasさん - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, リンクによる
アリシンのような硫黄(S)を含んだ化合物で、
後者の青臭さは、

ヘキサノールというアルコールや

ヘキサナールというアルデヒドがあります。
※指田豊著 身近な「匂いと香り」の植物辞典 - BABジャパン 157ページ
ちなみにですが、ヘキサノールとヘキサナールは高濃度になると不快な香りになるそうですが、少量であれば良い香りと感じる事が多いそうです。
上記の内容を踏まえた上で、ネギの付加価値として増えて欲しい香りはおそらくヘキサノールかヘキサナールになりますので、これらの香り化合物がどのように合成されているのか?を見ていきます。
補足
ヘキサノールとヘキサナールは緑の香り(Green leaf volatiles:GLVs)と呼ばれ、この香りを嗅ぐとストレス緩和に繋がる可能性があります。
ヘキサナールに絞って話を進めますが、ヘキサナールは植物油の成分として良く見聞きします

リノール酸や

リノレン酸等の脂肪酸が酸化されることで合成されます。
具体的に書きますと、葉に含まれる脂肪酸が食害性昆虫による食害を受けるか収穫時に刈るといった損傷があった時に酸化が始まり揮発します。
その揮発物を人の鼻が感知することで香りを感じた事になります。
であれば、葉に含まれるリノール酸やリノレン酸が多くなれば、ネギの香りが強くなる可能性が高くなります。
葉の脂肪酸が増える事でネギの香りが強くなると仮定して、次に考える事は脂肪酸を豊富に含む肥料を与えたら葉の脂肪酸の含有量は増えるのか?になります。
この疑問に対して脂肪酸は葉や根から吸収されるか? | みんなのひろば | 日本植物生理学会に植物は脂肪酸を吸収して利用するという内容が記載されていました。
トマトの報告になりますが、Manipulating Membrane Fatty Acid Compositions of Whole Plants with Tween-Fatty Acid Esters - PMCでリノール酸を直接吸収して利用しているという内容が記載されていました。
ネギでも同様にリノール酸を直接吸収出来ると仮定して話を進めます。
リノール酸を豊富に含む肥料を挙げてみますと、

魚粉肥料や、
※上の写真は赤身魚系の魚粉肥料ですが、リノール酸の含有量でみれば青魚系の魚粉肥料の方が多く含まれている可能性があります。

ゴマ油粕肥料があります。
油粕肥料には菜種油粕や大豆油粕がありますが、リノール酸の含有量と入手のし易さからゴマ油粕をお勧めします。
土の生物性が向上すると香りが強くなる可能性がありますので、上記の肥料を施肥する前に土壌改良をしておくことをお勧めします。
以下から余談になりますが、脂肪酸は葉や根から吸収されるか? | みんなのひろば | 日本植物生理学会の内容を再び触れることにしまして、植物が脂肪酸を吸収した際にその脂肪酸は膜脂質に取り込まれると記載されていました。
この膜脂質を人が摂取した場合、どのような影響があるので調べてみることにしました。
膜脂質はリン脂質と呼ばれていまして、リン脂質と味覚について検索をしてみましたところ、桂木能久著 苦味だけを選択的に抑制するリン脂質 化学と生物 Vol.35, No. 7, 1997が見つかりました。
内容の詳細はリン脂質のうちホスファチジン酸が苦味のみを抑制するという内容でした。
味覚で苦味が抑制されるということは、甘味や旨味がより目立つという事になりますので、香り成分の余剰分がリン脂質になっているのであれば、香りが強くなったネギは美味しさも向上している可能性があります。
補足1
今回の記事で話題に挙げました緑の香りは猛暑日対策でも触れています。
補足2
緑の香りは天敵を呼ぶ為に利用されているという報告もあり、香りが強くなる程、食害性昆虫からの被害が減る可能性があります。
