京都農販日誌

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バイオ炭について

2025/05/16

バイオ炭に関する話題が増えてきまして、いつでも返答出来るように理解を深めておく必要性を感じています。

手探りではありますが、バイオ炭について整理していくことにします。


始めにバイオ炭についてですが、バイオ炭(バイオチャコール)は、木材、竹、もみ殻や家畜糞等の生物由来の有機物を酸素がほとんどない状態で加熱(炭化)して作られる炭を指すそうです。


※図:図解よくわかる 炭の力 - 日刊工業新聞社の11ページより引用


慣習的に作られるもみ殻燻炭はバイオ炭の身近な例だと言えます。

もみ殻燻炭等のバイオ炭は環境に優しい土壌改良材として注目されています。


バイオ炭の一般的な肥効としまして



  • ・多孔質で、この孔により保水性や保肥力が向上する
  • ・多孔質の孔が土壌微生物の住処になる
  • ・炭素を豊富に含み、大気中の二酸化炭素を土中に固定する
  • ・pHが高く、土壌のpHを調整する

があります。

※3番目の二酸化炭素を土中に固定ですが、バイオ炭は土壌の微生物による分解はされ難く、施肥後に長い期間残留するという特徴がありまして、温室効果ガスの削減に有効だとされています。


バイオ炭の構造を見ながら、土壌改良材としての効果を見ていくことにしましょう。





始めに炭化する前のもみ殻の成分を確認しておきます。

約8割はセルロース、ヘミセルロース、リグニンといった難分解性有機物で、残りの2割が非晶質シリカ(ケイ酸)やカリウム等のミネラルになるそうです。


炭化について調べると、リグニン等の難分解性の炭素化合物の反応が主に記載されていることが多いので、同じ視点で見ていきます。


イメージではありますが、宮崎大学工学部物質環境化学部の松井松下研究室のサイトでわかりやすい記載がありましたので参考にしてみます。




上記のサイトの画像を引用する前に炭化についての基本的な内容について触れておきますと、炭化は空気が少ないところで炭素化合物系の有機物を加熱した際に生じる反応になりまして、280℃ぐらいから急激に組成分解を始め、二酸化炭素、一酸化炭素、水素や炭化水素がガスとなって揮発しつつ、残りの成分(主に炭素)同士が結合して残ります。

図解よくわかる 炭の力 - 日刊工業新聞社の8ページを参考


イメージとしましては、



上の図(リグニンを構成するモノリグノール)でいうところのメトキシ基(-OCH3)から炭素が外れ、周辺にある酸素と反応して二酸化炭素や 一酸化炭素として揮発する。

他にも水素が外れ、水素単体のガスや炭素と反応した炭化水素(エチレン等)としても揮発します。


ベンゼン環(六角形の箇所)は残り、残ったもの同士で結合して、


図:宮崎大学工学部物質環境化学部の松井松下研究室より引用


大きな化合物へと変わっていきます。

※上の図はスギの炭化の話ですが、もみ殻に含まれる成分と同じものを見ていますので、もみ殻も共通の反応が有り得るという仮定で見ています。


上の図で注目すべき箇所としまして、低温域(200〜400℃)での炭化の場合、酸性官能基(-COOHのカルボキシ基や-OHのフェノール性ヒドロキシ基)等が残っていることで、高温(400℃以上)にすると酸性官能基が消失しています。

酸性官能基のカルボキシ基は保肥力に関与している可能性があり、炭化の温度帯を上げる程酸性官能基の数が減り、肥料としてのバイオ炭の化学性が低下しています。

堆肥に求める機能




高温で炭化させる程、pHを下げる要因が減り、逆にpHを上げる要因が増え炭全体のpHが上がる傾向にあります。

pHを上げる要因はいくつかありまして、その中の一つがもみ殻に含まれるミネラルが酸化物や炭酸塩として蓄積するということがあります。


pHを高める要因のミネラルについて見ていきますと、酸化カルシウム(Cao)の反応があります。

酸化カルシウム反応は下記の通りです。

CaO + H20 → Ca(OH)2

Ca(OH)2 + 2H+ → Ca2+ + H2O

pHを下げる要因の水素イオン(H+)の数が減り、pHが上昇しています。


他に重炭酸カリの反応もあり、下記の通りです。

KHCO3 + H+ → K+ + H2CO3

H2CO3 ⇄ H2O + CO2

こちらの反応でもpHを下げる要因の水素イオン(H+)の数が減り、pHが上昇しています。

※炭のpHを上げる要因は他に芳香族炭素骨格のπ電子系というものがあるそうですが、こちらには触れません。


とりあえず、炭化に関しての大まかな反応が見えたので、バイオ炭の肥効を大まかなイメージは出来るようになりました。

他には家畜糞に含まれる有機態窒素や有機態リン酸の変化を見ておく必要があるかと思います。

肥料成分の窒素(N) - お役立ち農業辞書

肥料成分のリン(P) - お役立ち農業辞書


補足

バイオ炭に関する国内の動向としまして、J-クレジット制度における 「バイオ炭の農地施用」の方法論について - 農林水産省等を一読することをおすすめします。


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