京都農販日誌

京都農販日誌

タンニン(ポリフェノール)の使いどころ

2025/09/15

タンニン(または腐植酸)を使用すると根が焼けそうで怖いという話題が挙がりました。

この内容は腐植酸の理解度を高める上で興味深い話題になりますので、丁寧に見ていくことにします。

※今回の内容はタンニン鉄を利用して秀品率を上げるの内容の詳細になります。


最初にタンニンについて整理しておきます。


タンニンはポリフェノールの一種で、基本的な構造は複数のポリフェールが繋がった形をしています。


タンニンには大きく分けて二種類有り、縮合型タンニンと加水分解型タンニンがありますが、今回はタンニンの詳細には触れませんので、詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。

寺尾純二等 食事由来ポリフェノールの機能性研究の展望と社会実装化 ポリフェノールの摂取目安量の策定へ向けて - 化学と生物 Vol. 59, No. 5, 2021




タンニンの基になるポリフェノールには、



コーヒー等に含まれているコーヒー酸(カフェ酸)、

コーヒー酸 - Wikipedia



茶葉等に含まれているカテキンや

カテキン - Wikipedia



ブルーベリ等でよく見聞きするアントシアニンがあります。

※上の図はアントシアニンの基になるアントシアンのシアニジンになります。

シアニジン - Wikipedia


今挙げた3個の化合物で共通していることとしまして、



六角形の構造(ベンゼン環)に2つ以上のヒドロキシ基(-OH)が付いています。

この構造が健康食品等でよく言われる抗酸化作用を発揮する箇所になり、冒頭のタンニンを施肥すると根が焼けそうで怖いという内容に繋がっていきます。


余談ですが、カテキン等のポリフェノールが複数個繋がると、



縮合型タンニンなり、更にリグニン、糖やペプチド等の有機物と複雑な反応をすることで腐植酸へと変化していきます。

熟成堆肥の使い方




ポリフェノールの抗酸化作用について見ていきます。

植物や動物関係なく、生物が活動すると体内で活性酸素と呼ばれる化合物が自然発生し、それが体内の様々な器官にダメージを与えます。


活性酸素にはいくつかありますが、弱い活性酸素の過酸化水素(H202)とポリフェノールの反応を見てみます。

H202 + ポリフェノール → 2H2O + キノン(酸化型のポリフェノール)

のような反応になります。



キノンは上の図のような形をしていて、水素(H)が2つ無くなっています。

詳細は触れませんが、活性酸素を還元する時に電子(e-)も2つ無くなっています。


キノンは他のポリフェノールと反応した後に結合し、繰り返す事でタンニンへと変化していきます。




ポリフェノールの抗酸化作用に合わせてもう一つ重要な反応としてキレート作用があります。


※図:ポリフェノールの科学|朝倉書店 34ページより引用


キレート作用というのは、ポリフェノールの2つのヒドロキシ基(-OH)が金属(M2+には鉄のFe2+等が入る)を挟むように結合する事を指します。


このポリフェノールの抗酸化作用とキレート作用が組み合わると興味深い反応が生じます。




ポリフェノールと鉄(Fe3+)を散布すると、

Fe3+ + ポリフェノール(還元型) → Fe2+ + ポリフェノール(酸化型)

のように鉄が還元されます。

※ 肥料の話では、Fe2+を二価鉄と呼ぶことがあります。


他のポリフェノールが二価鉄とキレート結合をします。


キレート結合した二価鉄に対して、弱い活性酸素である過酸化水素(H2O2)を反応させると、フェントン反応という反応が発生し、過酸化水素が強い活性酸素のヒドロキシラジカル(・OH)になり、土壌の微生物に対して殺菌作用を示します。

森川クラウジオ健治 茶殻・コーヒー滓が触媒に?繰り返し使用が可能なフェントン反応 - 化学と生物 Vol.54, No.5, 2016


この反応は土壌消毒を行ったことと同じで、効きは比較的強めです。


このヒドロキシラジカルですが植物の根が焼ける要因にもなりますので、冒頭のタンニン(腐植酸)を使用すると根が焼けそうで怖いの話に繋がります。




ポリフェノール + 鉄 + 過酸化水素の土壌消毒ですが、他の消毒(薬剤散布、太陽熱養生や米ぬか土壌消毒)と比較して、消毒後に土が良くなるという利点があります。


太陽熱養生は薬剤を利用しないのは良いですが、土を熱くしてしまい風化を早め地力の低下を促進する可能性があります。

米ぬか土壌消毒は土壌中のリン酸の量を増やしてしまうのが難儀です。

土壌中のリン酸量と病原性のカビの振る舞いについて


ポリフェノール + 鉄 + 過酸化水素ですが、ポリフェノールが酸化される(キノンになる)度に他のポリフェノールと結合し、タンニンを経て腐植酸のような形へと変わっていき、土壌中の粘土鉱物と結合することで、フカフカの良い土へと変わっていきます。


ポリフェノール + 鉄 + 過酸化水素では過剰症で困る成分は無いので、土壌消毒 → 土壌改良の順で狙え、生物性の向上にも貢献します。

熟成堆肥の使い方


タンニン(ポリフェノール)の施肥を土壌消毒として捉えれば、施肥の時期は栽培よりも前段階になり、根が焼ける問題は回避出来ることにになります。




今回の話題で挙がりましたタンニン(ポリフェノール)は



コーヒー粕や



主に落葉広葉樹の落葉が多い腐葉土に多く含まれています。


鉄は可能であれば鉄粉が良いですが、土壌中の鉄を活用し、過酸化水素は酸素供給剤があります。

M.O.X - 京都農販

※ M.O.Xの説明に、鉄剤との混用は避けてくださいと記載されていますが、これは今回触れましたフェントン反応が発生するからです。


関連記事

リン酸過剰問題に対して腐植酸の施用は有効か?

一覧に戻る

お問い合わせ

弊社へのご相談・ご質問は
こちらからお問い合わせください。

お問い合わせはこちら