京都農販日誌

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菌根菌の栽培を取り組む前に意識してほしいこと

2024/08/19

菌根菌を利用した栽培事例をよく見かけるようになりました。

米輸出促進に向けた、「未来の米づくり」対話(第1回)を開催します:農林水産省


技術革新は素晴らしいですが、危うさを感じましたので、懸念事項を記載しておきます。




栽培に関係している菌根菌についてざっくりと触れておきますと、植物の根と共生する原始的なカビの一種を指します。

詳しくは菌根菌に関して肥料でどこまで出来るか?に記載していますが、


Catherine N. Jacott, Jeremy D. Murray and Christopher J. Ridout - [1]doi:10.3390/agronomy7040075, CC 表示-継承 4.0, リンクによる


植物の根と共生(上の図右)して、植物の根より細くて長い菌糸が、宿主である植物の根が届かなかったであろうところにある養分を吸収し、宿主に一部を渡す。

宿主は菌根菌に対して、光合成産物を与えるといったことを行います。


植物と菌根菌の共生では養分のやり取り以外に宿主の植物が高温耐性や病害虫耐性を得られたりと栽培者にとって良い事尽くしです。

※高温耐性は根のトレハロースや地上部の脂肪酸等の増加あたり

高温耐性について

猛暑日対策


ただし、植物と菌根菌を人為的に共生状態にさせるのは非常に難しいとされており、環境条件を整える必要があります。

嫌われ者のカビが農作物を救う⁉ 京大発バイオベンチャーの挑戦【#1】|マイナビ農業

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ここまでの内容で一体何処に心配事があるのか?と疑問に思われるかもしれません。


心配事というのは、菌根菌を用いた栽培を過信し過ぎる事です。




菌根菌で養分吸収が効率化することによって、真っ先に思いつくのが施肥の節約ではないでしょうか?

リン酸等の施肥後に土壌粒子に付着して、施肥効率が落ちるような成分の回収率が高まると言われています。

リン酸無しの基肥の試験栽培を行っています


ここで一点注意なのですが、菌根菌が吸収している養分というのはすべてが残留した肥料由来ではなく、その土地に元からあった地力(鉱物由来の微量要素)が含まれています。

※上の図であれば、Zn2+の亜鉛が該当します。

※他にはカリウム(K)や銅(Cu)等があります。

土壌の劣化を考えるために地力について整理する


菌根菌による栽培というのは、肥料の節約ではなく、地力の前借りをするようなものでして、地力を意識せずに栽培を続ける事は土壌劣化を早める要因になります。

※不耕起栽培でも鉱物の消失系の土壌劣化を防ぐ事はできません




就農してから10年ぐらいは順調だったが、その後は年々収量が落ちていくと相談を多々受けますが、ほ場を確認すると土が使い倒されていて、パサパサの土の箇所はほぼすべてでした。

このような土壌で起死回生のように菌根菌に頼ったとしても、肝心の土壌鉱物由来の養分がありませんので、菌根菌との共生の恩恵にすがることはできません。

※各種耐性に係る化合物の合成には微量要素を必要とします。


菌根菌に頼る前に、地力について見直す事をおすすめします。


興味深い事に菌根菌による栽培で実績報告されている方々の地質を確認すると、比較的恵まれている土地でした。


恵まれている土地で発展した技術を恵まれていない土地で活用すると目も当てられないような惨状になります。

栽培に菌根菌を取り入れようと検討している方は、一旦立ち止まり、ほ場の土の状態を確認することをおすすめします。

地力を高めるには

栽培が難しいとされる赤黄色土について


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